第147話「届く報告」
王城。
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重厚な廊下を。
一人の男が早足で進んでいた。
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貴族会館からの使者。
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顔色は悪い。
呼吸も浅い。
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それでも。
止まれない。
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もう。
自分たちだけでは抱えきれなかった。
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王城内部は静かだった。
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兵士たちは整列し。
使用人たちは頭を下げる。
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いつも通り。
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だが。
その“いつも通り”が。
今は異様に感じる。
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王都が壊れ始めている。
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なのに。
ここだけはまだ。
止まっている。
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「……王弟殿下へ報告を」
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使者が言う。
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近衛騎士が目を細める。
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「……内容は」
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一瞬。
言葉に詰まる。
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「……貴族消失事件についてです」
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その瞬間。
空気がわずかに変わった。
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騎士は黙る。
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そして。
静かに扉を開いた。
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部屋の奥。
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一人の男が座っている。
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王弟。
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穏やかな表情。
整った服装。
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まるで。
何も起きていないかのようだった。
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「……失礼します」
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使者が頭を下げる。
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「……話は?」
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王弟の声は静かだった。
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焦りがない。
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それだけで。
使者の背中に冷たい汗が流れる。
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「……現在」
「……貴族たちが順番に消失しています」
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「……原因は」
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喉が詰まる。
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だが。
言うしかない。
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「……ゼル・アークレイド」
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王弟の指が。
一瞬だけ止まった。
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本当に。
ほんの一瞬。
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だが。
使者は見逃さなかった。
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「……そうか」
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短い返答。
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それだけ。
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王弟は動揺しない。
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怒りもしない。
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ただ。
静かに聞いている。
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「……現在」
「……接触も試みました」
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「……ですが」
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声が震える。
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「……十五歳以下を利用したことを」
「……完全に見抜かれています」
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沈黙。
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長い。
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部屋の空気が重くなる。
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王弟は目を閉じる。
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そして。
小さく息を吐いた。
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「……愚かだな」
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使者の肩が震える。
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怒鳴られていない。
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だが。
その一言が。
何より怖かった。
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「……あれは」
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王弟が静かに言う。
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「……利用できる類の人間ではない」
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使者は顔を上げられない。
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知っている。
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その通りだと。
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「……では」
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「……どうすれば……」
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ようやく出た言葉。
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王弟はしばらく黙る。
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そして。
ゆっくり目を開いた。
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その目だけが。
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異様に冷たかった。
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「……まずは」
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「……王族側の整理だ」
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使者の呼吸が止まる。
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整理。
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その意味を。
理解してしまう。
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王弟はもう。
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“貴族を守る段階”ではなくなっていた。




