第143話「利用された者」
沈黙が続いていた。
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誰も動けない。
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護衛たちは震えたまま。
剣を握っている。
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だが。
戦う気配はない。
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ルークだけが。
馬車の前で座ったまま。
ゼルを見ていた。
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怖い。
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それは変わらない。
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だが。
少しだけ。
分かってしまった。
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この男は。
自分を殺しに来たわけじゃない。
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見ているのは。
別のものだ。
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「……お前は」
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ゼルが再び口を開く。
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「……何を聞かされて来た」
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静かな声。
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責める響きはない。
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だからこそ。
ルークは答えに詰まる。
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「……接触しろって……」
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喉が乾く。
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「……話せば」
「……交渉できるかもしれないって……」
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言葉が終わる。
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護衛たちの顔色が変わる。
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止められない。
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もう遅い。
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ゼルは黙ったまま聞いている。
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「……十五歳以下には」
「……手を出さないって……」
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その瞬間。
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空気が変わった。
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ほんのわずか。
だが。
全員が分かるほどに。
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冷たい。
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護衛の一人が息を呑む。
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ルークも気づく。
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言ってはいけなかった。
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いや。
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違う。
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“利用したこと”が。
完全に伝わった。
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ゼルの視線が静かに落ちる。
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ロイド家の紋章。
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馬車。
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護衛。
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全部を見た後。
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再び。
ルークを見る。
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「……そうか」
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それだけ。
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短い。
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だが。
その一言で。
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護衛たちの顔から血の気が消える。
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終わった。
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誰もがそう理解する。
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ルークの胸が苦しくなる。
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「……俺は」
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気づけば口が動いていた。
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「……知らなかった」
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震える声。
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「……本当に……」
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ゼルは黙って聞いている。
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否定もしない。
怒鳴りもしない。
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その静けさが。
ルークには耐え難かった。
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「……でも」
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唇を噛む。
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「……利用されたのは」
「……分かる」
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初めて。
自分で認めた。
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道具として使われたことを。
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ゼルの目が。
ほんの少しだけ細くなる。
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怒りではない。
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確認。
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その視線だった。
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そして。
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ゼルはゆっくり後ろを向く。
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護衛たちが震える。
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だが。
ゼルは斬らない。
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歩き出す。
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静かに。
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そのまま。
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去っていく。
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誰も止められない。
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誰も声を出せない。
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ただ。
立ち尽くす。
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ルークは呆然と見送る。
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怖かった。
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なのに。
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最後まで。
自分へは刃を向けなかった。
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そして。
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今。
ようやく理解する。
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十五歳以下を守る。
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それは。
“条件”じゃない。
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“覚悟”だ。
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利用していいものじゃなかった。
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その事実だけが。
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重く。
胸に残り続けていた。




