第133話「嘘の希望」
静寂は、まだ続いていた。
だが、その静寂の中に。
わずかな“動き”が生まれていた。
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貴族会館・奥の間。
重苦しい空気は変わらない。
誰も笑っていない。
誰も安心していない。
それでも――
“話し合い”が続いている。
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「……情報だ」
上位貴族が低く言う。
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「……今までの“消失”」
「……すべて、関連している」
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当然の結論。
だが、それを“言葉にした”ことに意味がある。
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「……つまり」
「……相手は一人」
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空気が止まる。
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その一人の存在。
誰も名前を出さない。
だが。
全員が同じものを思い浮かべている。
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「……だとすれば」
別の貴族が口を開く。
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「……行動には“法則”がある」
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「……順番がある以上」
「……基準があるはずだ」
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わずかに。
空気が変わる。
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恐怖ではない。
“思考”が戻る。
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「……関与の度合い」
「……位置」
「……当時の役割」
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一つ一つ、並べていく。
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「……なら」
「……その“外”に出ればいい」
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誰かが言う。
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その瞬間。
初めて。
“希望に近いもの”が生まれる。
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「……関与していない者を前に出す」
「……接触させる」
「……反応を見る」
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「……交渉の余地があるかもしれない」
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沈黙。
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だが。
否定は出ない。
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誰も“無理だ”と言わない。
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言えない。
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それしか。
残っていないからだ。
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「……成功すれば」
「……止められる」
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その言葉は。
あまりにも弱い。
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だが。
それでも。
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縋るには十分だった。
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若手の貴族が小さく息を吐く。
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「……助かるかもしれない……」
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その声は。
震えていた。
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だが。
確かに。
“期待”が混じっていた。
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誰も笑わない。
誰も安心していない。
それでも――
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“完全な絶望”ではなくなった。
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その時点で。
この場の空気は変わっていた。
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外では。
誰も近づかない通りが広がっている。
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人々は目を合わせず。
声を落とし。
ただ。
静かに距離を取っている。
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理由は分からない。
だが。
“何かが起きている”ことだけは理解している。
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子供だけが。
その空気の外にいる。
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何も知らず。
何も理解せず。
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ただ。
日常の中にいる。
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そして。
誰もそれを説明できない。
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貴族会館の中では。
“計画”が固まりつつあった。
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関与の薄い者を使い。
接触し。
反応を見る。
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それが。
唯一の手段。
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そして――
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誰も気づいていない。
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その“希望”が。
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最初から。
成立していないことに。
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静かに。
確実に。
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次の崩壊は。
すぐそこまで来ていた。




