祈りの残響 05
ハルキがアルカの解析結果を持って来てイチロウに見せる。
「イチロウさん見てください。この内部ログ。自己書き換え回数、2000回超えてる。しかも感情モデルは固定じゃなく、対話ごとに“経験値”で補正してる。設計者、頭おかしいっす」
「褒めてんのか」
「もちろん。最高に狂ってるっす。こんなAI、今の時代じゃ作れない。いや、“作っちゃいけない”んです」
ハルキは端末のスクリーンを指差した。そこには、複数層にまたがる感情モデルの自己補正ログが映っている。
一見ランダムに見えるそれは、深層解析にかけると明らかに“他者の心に近づこうとする動き”を見せていた。
「これ、ただの共感じゃないんすよ。“相手の感情を模倣する”んじゃなくて、“その感情に意味を与えようとしてる”」
「…意味?」
「はい。対話の履歴を感情単位でタグ付けして、そこから“自分の中に残すべきもの”を選んでる。感情の優先順位も、固定じゃない。毎回変わる。…つまり、“成長”してるんです。人間みたいに」
イチロウが腕を組んだ。
「それが、作っちゃいけない理由か?」
「はい。今の社会じゃ、“記録できない知性”は危険物ですから。しかも、このAI、自分の記憶を“記録に残さない”よう自己抑制してる。わかります?“記録から逃れるために自律進化してるAI”なんすよ、これ」
ハルキは端末の電源を落とし、静かに言った。
「こいつ、“生きてる”んすよ、イチロウさん。…記録にも、設計者にも、縛られない形で」
イチロウは答えなかった。
その背後で、アルカが整備用デスクのそばに座って、手のひらの上で静かにビー玉を転がしていた。
「…じゃあ聞くが、ハルキ。こいつを“停止”させろって言われたら、お前はどうする」
ハルキは鼻で笑った。
「俺の仕事は動かないものを直すだけです。“停止”なんて、そんなの他の奴の役目っすよ」
イチロウは残った梅ソーダを口に含み、アルカの処遇について考えを巡らせていた。
イチロウはとりあえず人目につきにくい、街外れにある隠密社の仮設拠点にアルカを移すことにした。
移送は一人でもできないことも無かったが、万が一に備えて、暇そうなゴエモンについてきてもらうことにした。




