20:何でもありの三十人三十一脚
僕の最後の希望、三十人三十一脚の時間がやって来た。
当然ながら僕はやる気満々なんだけど、ミャルを始めクラス全員が絶対に一位を取るぞと意気込んでいる。
というのも、ここまで熾烈な首位争いをしてきた僕ら二年A組は、ここで一位を取ると優勝確実になるんだ。
まだこのあと最終競技のクラス対抗リレーがあるけれど、それを待たずして勝利を掴んでおきたいとみんなが思ってるというわけだ。
交流体育祭の優勝クラスは学食無料券がもらえるからね。一万円のスペシャル和定食だって食べられるんだから、勝ちたいに決まってる。
今日まで十日あまりの練習期間、ミャルの出場競技の練習はもちろんしたけれど、それだけじゃなく僕らは毎日クラス一丸となって三十人三十一脚の練習に励んできた。そのおかげでミャルともすっかり仲良くなれたし、僕たち二年A組の団結力は驚くほど強いものになったと思う。
きっと勝てるという自信はもちろんあるけれど、だからといって気を抜けるわけでもない。
何せこの競技、ただクラス全員が息を揃えて走れば良いというわけじゃないんだ。
道具を使うのは禁止されているけれど、クラス全員の足首さえ紐で結んであれば生徒個人の能力は使ってもいいというルールがあるから、特殊な技能を持つ宇宙人生徒がいるクラスはとんでもない作戦で出てくる可能性がある。
「キシャー! またあのウネウネ出してるニャ! 気持ち悪いニャ! やっつけるニャ!」
僕らと綱引きで対戦して負傷した二年B組の橘も、無事に復帰してきたみたいだ。あちらのクラスは、どうやら橘の触手を使って転んだりしないように全員の腰を支えつつ走る作戦らしい。
すでにレイア様と紐で繋がりスタート位置についているミャルの荒ぶる尻尾が遠目にチラチラと見える。今そばにいればあの尻尾に触れたかもしれないのに勿体無いなぁ。
他のクラスはといえば、翼のある宇宙人生徒が多いクラスは羽ばたいて加速する作戦みたいだし、普段は人型を模しているけれど実態はスライムみたいな粘状宇宙人がいるクラスは、全員の足を丸ごと粘液で包み込んで多少遅くなっても確実に揃って進む作戦みたいだ。
毎年思うけど、本当に何でもありだなこの競技。
そしてもちろん僕らのクラスも秘策がある。
「さあ、みなさん! ドリュアさんの花を忘れずに付けて、紐に緩みがないかしっかり確認なさい! まもなくスタートですわよ!」
男女の並びの境にいる僕の隣、女子側の端になるドリュアさんは植物系宇宙人だ。
見た目は頭に大きな花を付けてる可憐な美少女なんだけど、あくまでもこれは人型を模してるだけだそうで、本当の姿は若木そのものみたいな姿らしい。あまり知られていないけれど、そもそも女ですらなく実は無性だと聞いている。
そんなドリュアさんがみんなに配った小さな花を、僕らは耳元に装着している。この花はドリュアさんの一部だそうで、切り離されてもドリュアさんの声が聞こえるという不思議な花だ。
僕らはこれでタイミングを合わせて走る練習を続けてきた。みんなで声を出すとどうしてもバラけるし、何より走る事に集中したいからね。通信機は使えないけどこれはドリュアさんの身体機能だから大丈夫というわけ。
ちなみに男子側の隣はデビル星人のアスモドくんだったりする。僕の両脇だけ顔面偏差値がとてつもなく高い。
ドリュアさんとアスモドくんが並べば美男美女なのに、間に挟まれる僕の場違い感が居た堪れない。
なんだこれ、罰ゲームか?
けれど、そんな気持ちはアスモドくんの方が強そうなんだよな。
羊みたいな立派な巻角のあるアスモドくんが可愛い小さな花を付けてる姿は、僕からすればそんなに違和感はないんだけれど、本人はめちゃくちゃ渋い顔してる。
イケメンは花も似合うと僕は思うんだよ。平凡な僕はまあどうでもいいとして、いかついミノレスくんの方が違和感としてはものすごい。
でもアスモドくん的にこれはないらしい。練習中もそうだったけど、衆目に晒される今はこれまでにないぐらい不機嫌なようで、おそらくドリュアさんに向けてるだろう圧がモロに僕に飛んでくる。
でもこれも勝利のためだと思えば、僕はいくらでも耐えられる。
これで一位を取って、みんなで喜びを分かち合うどさくさに紛れてミャルのモフモフにもう一度触るんだ! 絶対に負けないぞ!
「それでは位置について! よーい、スタート!」
二年の全クラスが横一列に並び、号砲と共に走り出す。
僕もドリュアさんとアスモドくんとガッチリ肩を組み、ドリュアさんの掛け声に合わせてひたすらに足を出していく。
周囲を見る余裕なんてない。目指すはゴールのみ!
そして必死に走った結果……。
「ウニャー! どうしてニャ! ニャんでニャー!」
「はは、どうやら借りは返せたみたいだね」
間違いなく僕らは全力を出したけれど、残念ながら僅差で二位に終わった。
しかも一位を取ったのは橘率いる二年B組で、暫定一位の座も持って行かれてしまった。
思い切り走ったからただでさえ息が上がっているけれど、悔しさもあってみんな立ち上がれない。
そんなくずおれる僕らの所までわざわざやって来て、満足げに胸を張る橘が恨めしい。
この触手ヤローめ! よくも最後のモフモフチャンスを!
これだけが希望だったのに……‼︎
「一度勝ったぐらいでずいぶん大きな顔をしますのね。良い気になるのも今のうちですわ。もう一度、リレーで引導を渡してさしあげてよ」
「それは楽しみだ。健闘を祈るよ」
睨むレイア様に、橘は余裕の表情で返していた。
残るは最終競技のクラス対抗リレーだけ。ここで勝てば、まだ逆転のチャンスはある。
もうモフモフチャンスはないけれど、このまま負けるなんて絶対に嫌だ。僕は走らないけれど、全力で応援しよう。




