12.夕食②
今日の夕食はベイジルと考えたスペシャルメニューだ。
自家菜園で採れたとうもろこしのコーンスープ、瑞々しい朝採り野菜のサラダ、鶏肉と色とりどりの野菜をとじこめたテリーヌ、おからコロッケを模したミニビーンズコロッケ、夏に集めた庭のプラムから作った自家製果実酒、ほうれん草とベーコンのキッシュ、白パン、ローストビーフ、デザートとなっている。
「本邸のメニューがだいぶ変わったな! 見たことない揚げ物だが、とても美味い。胃にもたれずひとくちで軽く食べられる」
「このピンク色の甘い酒が黒コショウの効いた肉によく合うな!」
2人とも満足そうに食べていたので、一安心。私は量こそ少ないが、同じ品目のメニューをゆっくり食べる。もちろんお酒は飲まない。
その様子を見ていた2人が、
「本当にリリーがお肉を食べてる… 」
「一皿の半分でお腹をさすっていたのに、あんなに食べられるようになったんだ…
今日一日でリリーには本当に驚かされるな」
と驚いたり感心したり目を潤ませたりしていた。
ディナーの終盤、デザートに差しかかり、お父様が私に声をかけた。
「リリー 今年の誕生日には何が欲しい? こんなに頑張ったんだから、何でも叶えてあげるよ」
「ありがとうございます。うーーん…」
誕生日を前にして、多分聞かれる質問だったから自分なりに考えてみてはいたが、基本的に欲しいものは買ってもらえていて不自由していない。
どうせスマホも無いし… 11歳なんて欲しい物がたくさんあるはずだが、私の精神年齢が18歳なものだから、おもちゃに興味が無い。
「考えてみましたが、私はとても恵まれていて、今は何も欲しいものはないのです」
私がそう答えると、お父様はカッと目を見開き、
「まだ子供なのに何も願いが無いなんて… この父に叶えられないものはないぞ! ドレスや宝石などの物ではないのなら、図書館や美術館のように建物だって作ることができる! さぁ、何かパパにお願いしてごらん」
いきなりの一人称パパ呼び!?
どうしても何か強請らせたいオーラがすごい…
ウーン… … アッ!
「お父様、それでしたら私、体育館が欲しいです」
「ん…お父様か… いやいや、体育館とは?」
「いきなりお外を走って転んだら痛そうだから、お屋根があって運動ができる建物があったら良いなって」
「なるほど。確かに外を走るのは危ない。危ないが、そもそも女の子は走らなくても良いし、運動なんてしなくても良いんだぞ。リリーはだいぶ元気になったようだし、充分なんじゃないのかい?」
出た出た! 女の子はおしとやかであれ理論。運動できなくてOK精神。 特に貴族には根強い考え方でしょうね。
「そうですか… ではやはり、今は欲しいものはないです」
シュンと目を伏せてシャーベットを口に運ぶ。
「あ〜〜いやいや!ダメとは言ってないぞ! そうだな、そろそろダンスの稽古も必要になる年頃だし、ダンスの練習場として、体育館?を作ろうか」
慌ててお父様が翻意し、必死に弁解している。
「本当ですか?」
「もちろん!使うアテもないから、金なら過ぎるほどある。王宮の舞踏会場より広いものを作ろうかな!!」
お父様がトンでもないことを言い出したので、そこまでの広さはいらないと強く否定し、適度な大きさにして頂けるようになった。