13.夕食③
「それにしても、リリーはなぜそんなに運動をしたいんだい? 早く走りたい理由でもあるの?」
お兄様に尋ねられる。
実は走るだけならもうかなりできる。
本邸の廊下でやっている。
でも体操でしていたバク転側転、リボンやバトンの演技、フェンシング、殺陣などの剣技は、ある程度のスペースが必要なのだ。
自室や廊下では到底できない。
小さい頃から親しんでいるこれらの運動を、この世界でもこっそり続けたい… なんて言えないしなぁ。
何と伝えたら納得して貰えるかしら…
「私もそろそろ街に出てみたいと思うのです。」
私はそう切り出した。
「私は病がちで、この公爵邸からほとんど出たことがありません。将来王室に入るのならそろそろ市井の様子をも見ておく必要があると思っています。でも、お外には怖い人もいらっしゃるのでしょう?」
私は精一杯子供の表情で不安そうに手をぎゅっと握りしめてみる。
「怖い人に追いかけられても、足が早ければ逃げられるじゃないですか! だから、早く走れるようになりたいのです」
私は良いことを思いついた!という顔をしてお兄様とお父様の顔を見上げた。
「なるほど… しかしそんな奴がいたら私が生きてることを後悔するような目に遭わせてやろう…」
お父様はデレデレの顔から急転裏稼業のボスもまっ青な表情になって言った。
「まぁ、舞踏ホール…体育館?は建てるとしても、確かにそろそろリリーに護衛は必要かもしれないね。邸から出る機会もあるかもしれないし」
お兄様が頷きながら、
「ディアマン公爵家の私兵の中から、良さそうな奴を探しておこう」
と言った。
ディアマン公爵家の領地は隣国と川を隔てて接しているため、国境付近に見張りや有事の対策のために私兵の所持が許されている。
その私兵の中から私みたいな小娘の護衛騎士を選ぼうと言うのだ。
「そこまでして頂かなくても大丈夫です!」
理由が口から出任せだったのに、どんどん話が大きくなってきてリリーが焦りだすが、二人は真剣に話を進めている。
あぁぁ、失敗した…
夕食が終わって部屋に戻る途中、お兄様と廊下で一緒になった。
「本当にリリーが元気になって良かった。
お父様があんなに嬉しそうにしている姿を久しぶりに目にしたよ。勿論僕も嬉しい。
僕からも何か誕生日のお祝いをしたいけれど、何か欲しいものはないかい? 僕はさすがに、建物とかは無理だから… 物にしてくれると有り難い。考えておいてね。」
お兄様はいたずらっぽく笑って、私の頭をくしゃりと撫でて部屋に戻られた。




