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『ダンジョン水耕栽培』~追放された王室庭師、不毛の地を「水」だけで最強の農園に変える~  作者: Gさん
第2章 『拠点』編

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第5話 王女様と快適ダンジョン・リフォーム

「……すごい。本当に動かなくなったわ」


リリアーナ王女が


巨大なミントの根に絡め取られて停止した「処刑鎌グリム・サイズ


の残骸を突っついている。


俺はその横で、ゴーレムの装甲を剥がしながら


鑑定スキルを発動していた。


「殿下、感心している場合じゃありません。宝の山ですよ、これは」


「宝? ただの鉄屑でしょう?」


「いいえ。このゴーレムの冷却パイプ、サビに強いミスリル合金製です。それに、魔石駆動の循環ポンプ……これがあれば、あのシステムが組めます」


俺の脳内に、前世のホームセンターの光景がフラッシュバックする。


水耕栽培において、最も重要なのは『水の循環』だ。


溜まり水では酸素が欠乏し、根腐れを起こす。


だが、このポンプとパイプを使えば


常に酸素を含んだ養液が根を撫でて流れる


『NFT(薄膜水耕)』システムが構築できる。


「それに、このカメラアイの赤色発光魔石……

 これは植物育成ライト(LED)の代わりになる!」


俺は思わず拳を握りしめた。


太陽光の届かないダンジョン内でも


特定の波長の光さえあれば光合成は可能だ。


「解体作業に入ります。殿下、その辺の平らな岩に座っていてください」


「む、無茶よ! 工具もないのにどうやって……」


「工具ならあります。『植物』という万能工具が」


俺は再び、ミントの根に魔力を送った。



数時間後。


そこには、かつての岩肌だけの殺風景な景色は消え失せていた。


ゴーレムの装甲板を『プランター』として再利用し


冷却パイプを張り巡らせた、システマチックな農園。


そして何より王女を驚愕させたのは


その中央に建つ『家』だった。


「……なに、これ」


「これは『緑のあずまや(グリーン・ガゼボ)』です。急速成長させたつた植物の茎を編み込んで柱と壁を作りました。葉が重なり合って屋根になっているのでダンジョンの水滴も凌げます」


生きた植物で作られたドーム状のシェルター。


内部には、乾燥させた巨大な葉っぱを何層にも重ねた


「ふかふかのベッド」も完備されている。


殺伐とした無機質なダンジョンの中に


そこだけ高級リゾートホテルのような空間が出現していた。


「水耕栽培の技術は、なにも野菜を育てるだけじゃないんです。植物の形を制御して、建築資材として使うのも庭師の嗜みですから」


もちろん『嘘』だ。


前世の「植物アート展」で見た記憶を再現しただけだが


この世界では魔法以上の奇跡に見えるらしい。


「王宮の寝室より……空気が美味しいわ」


リリアーナは恐る恐る『葉っぱのベッド』に腰を下ろし


その弾力に驚きの声を上げた。


「ミントとハーブの香りが充満してますからね。リラックス効果も抜群です」



拠点はできた。


次は労働力の確保だ。


俺は焚き火(枯れた根を燃料にした)で沸かした


ハーブティーを王女に差し出しながら、切り出した。


「さて、殿下。ここでは『働かざる者食うべからず』です」


「うっ……わ、分かっているわ。でも、私は剣も振れないし、魔法も……」


彼女はしゅんと肩を落とす。


王族としてのプライドと、無力感の板挟みになっているようだ。


俺は首を振った。


「力仕事は俺と植物がやります。殿下にお願いしたいのはもっと繊細で重要な仕事です」


「重要な、仕事?」


「ええ。『品質管理責任者クオリティ・マネージャー』および『種子の選別係』です」


俺は採取した種子の山を指差した。


「俺は栽培環境を作るのに手一杯です。どの野菜が美味しく育ったか、どの種が元気そうか、それを記録し、選別する目が必要です。……王族の舌と審美眼を、貸していただけませんか?」


その言葉を聞いた瞬間、リリアーナの瞳に光が戻った。


単なる雑用ではなく、『王族の能力』を必要とされたことが


嬉しかったのだろう。


彼女はティーカップを置き、背筋を伸ばした。


「……いいわ。許可する。貴方が作った野菜が王家の食卓に並ぶに相応しいか、私が厳しく審査してあげる!」


「はい、頼りにしていますよ。リリアーナ様」


俺が初めて名前で呼ぶと、彼女は耳まで赤くして


慌てて種の山に取り組み始めた。



こうして、奈落の底での共同生活が始まった。


ミスリルのパイプの中を、魔力を含んだ養液が静かに循環する音。


LEDライト代わりの魔石が、七色に野菜を照らす幻想的な光景。


そして、植物のベッドで安らかに眠る元王女。


快適だ。


地上の王宮では【土魔法派閥】の連中に嫌がらせを受け


予算を削られ、泥にまみれていた毎日が嘘のようだ。


ここでは、俺の知識がすべて正解になる。


「……だが、足りないな」


俺は手帳を開き、今後の計画を書き込んだ。


野菜は確保した。


住居も確保した。


だが、人間が生きていくには、決定的に足りない栄養素がある。


「タンパク質だ」


豆類を育てるのもいいが、もっと効率よく


そして美味いものが食いたい。


俺の視線は、ダンジョンの奥にある地底湖へと向けられた。


水耕栽培ハイドロカルチャーの進化系……『魚菜共生農法アクアポニックス』を試す時が来たようだな」


次回、ダンジョン産巨大魚の養殖、始めます。

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