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第十二話 初代国王とスピリティス家



「どうして私は疎まれているのですか?」


 アレクサンドルの目をまっすぐに見上げながら、ド直球の質問を投げかける。

 さすがに予想外の質問だったのか、アレクサンドルが固まった。


「なっ、別に疎んでなんかっ」

「この短時間でわかるほど露骨なのに?」


 黙り込むのも一瞬、上ずった声であげられる反論を遮り、さらに追いつめる。

 実際、侍女の態度だけでもそれがわかった。侯爵とその夫人、弟であるアレクサンドルの言動はそれに輪をかけて露骨だったのだから、気づくなという方が無理な話だ。


 じっと見つめる先で、アレクサンドルの顔が赤く染まる。

 再び反論しようとしたのか口を開きかけてつぐみ――観念したようにため息を落とした。


「そもそも、父上は魔力のある子供が欲しかったのだそうです」


 どこか疲れたように金色の前髪をかき上げる姿が、やけに絵になる男だった。


「僕は姉さんより三つも年下だ。姉さんが生まれた当時のことなんて知らない。別に、調べようとも思ったことがないから詳しくもない。伝聞としてしか話せませんが、それでも大丈夫ですか?」


 俯き、ちらりと上げられた目にはやはり、めんどくさそうな色が浮いている。

 おや、と思った。わざわざ前置きをつけるのは言い訳の意図もあるのかもしれないが、きちんと話す前提としか思えない。


 正直、意外だった。オレステスが記憶喪失のふりをして見せたとき、アレクサンドルはまず「ふざけるな!」と怒鳴りつけていた。

 常日頃からあのように接していたのなら、いくら父親からの命令とはいえおざなりな説明で終わると思っていたのに。


 考えてみれば、さきほどからオレステスのする質問にも、しっかりと答えている。

 第一印象は最悪だったけれど、侯爵夫妻に比べればまだましなのかもしれない。


「もちろんよ。ありがとう」


 目を見つめ返して率直に礼を伝えると、アレクサンドルはついっと視線を逸らす。

 その頬が、ほんのり赤く見えたのは気のせいか。


「スピリティス家が建国のとき、王の助けとなったことはお話ししましたよね? その助力とは、魔導士としてのものでした」


 なぜかしかめっ面をしたままながら、アレクサンドルは続けた。


「人が住み、農作物を育て、町として発展させるための土地を確保するには、まずは安全でなくてはなりません。そのために魔物を討伐し、結界を張る」

「結界を? ではこの国には魔物が出ないのですか?」


 そもそも魔物討伐でアパメアを訪れたのだから、そんなことがないのは承知の上だ。けれど「なんの知識もない人間」を装うのなら、そう考えるのではないかと思っての質問だった。

 案の定、アレクサンドルは頭を振る。


「そんなに強い結界を一人間が張るのは無理でしょう。精々が弱い魔物ならなんとなく避けようと思う、くらいの代物です。もちろん、それだけでもないよりはマシですが」

「まぁ、ですよね」

「僕たちの先祖はその結界を維持できる仕組みを作ったのだと聞いています。一族の者に限らず、魔力のある者が引き継げばいいと」

「――随分と清廉潔白なことで」


 権力の匂いがぷんぷんするそれを、あっさり放棄するとは。

 驚きよりも呆れを覚えつつ思わず洩らした呟きに、アレクサンドルは首肯した。


「ええ。だからこそ侯爵の位を賜ったのです。――本当は公爵位を与えようとしてくださったらしいのですが、それすら辞退したと伝わっています。恩人にどうしても報いたいと食い下がる初代国王に、先祖が折れたのだとか」


 なんだ、この国は聖人の巣窟か。綺麗事に過ぎると感じるのは、オレステスが擦れているせいかもしれないが。


「――先祖には、予知的なものがあったのかもしれません。その初代を除くと、我が家系からは魔力を持つ者がぱったりと消えたのです」

「それは――」


 ご愁傷さまというか、それとも珍しいと驚くべきか。

 オレステスには皆無だけれど、魔力というのは血筋で受け継がれることが多いと聞く。

 結界を張り、それを維持できるほどの仕組みを残したとすれば、魔法知識だけでなく魔力も相当だったはずなのに、失われたとすれば惜しいことこの上ない。


 ――ああ。


 そこまで考えて、急激に腑に落ちた。

 アレクサンドルは言っていたではないか。「父上は魔力のある子供が欲しかった」と。

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