第十三話 悪魔の子
ムナクソ悪い。
口に出して吐き捨てなかっただけ、上等だと思う。
「それで――魔力が絶えてしまったスピリティス家の権威を取り戻すだとかそういったことを目論んで、魔力を持つ子供を作ろうとした、と?」
自然に声音が低くなる。
オレステスとて、上流階級の間では子供同士を結婚させる、養子縁組するなどと言った手法で政治的道具として扱われるのは知っていた。
多妻の君主の元、「子供を作る」ことで自分の地位を確保しようとする者がいるのも、まぁ理解はできる。
だが、「子供の質」にこだわったのならば。
「そして、私に魔力はなかったのですね?」
侯爵の態度を見れば、一目瞭然だった。質にこだわったのに、生まれた子供には望む能力は備わっていなかった。
腹が立ったのかもしれない。そもそもが道具を作ることしか念頭になかったのなら、オレスティアは失敗作に他ならなかった。
「――その上、あなたの母君はすぐに亡くなってしまった。かなり強い魔力を持っていた方だったらしく、その女性で無理ならもう望めないだろうと、諦めざるを得なかったそうです」
アレクサンドルは頷かなかった。けれど続けた言葉が、はっきりと認め、肯定していた。
キリキリと痛む胃を押さえる。それこそ「ふざけるな」と叫びたい気持ちだった。
それを堪えたのは、その首謀者は目の前の青年ではないからだ。
――もっとも、最初の態度を見ていれば、積極的に加担はしていないものの見て見ぬふりくらいはしているようだけれど。
「姉さんが母君から受け継いだその、髪と瞳の色も問題でした」
あえて不快にしたいのでなければ、言わなくてもいいようなことまで口走る。
いや、オレステスがした質問は「なぜ疎まれているのか」なのだから、伝える方が誠実ではあるのかもしれない。
だが、決して正解ではない。
対人間として接するなら、言わない方がいい話ではあった。
オレステスとしては有益な情報ではあるが、世慣れしていないらしいアレクサンドルのことがやや心配になる。
「――色?」
きょとんと首を傾げて見せる。本当は、理由を察してはいたけれど。
「だって、悪魔の色でしょう」
やっぱりな。思った通りの答えに、呆れが浮く。
理由はよく知らないが、古から言われていることだ。なんとかいう毒性の物質の色だとか、死体や腐ったものに生えるカビからの連想だとか諸説あるが定かではない。
一部の信心深い人間や地域では、割りと浸透した考えらしい。
――実際、オレステスも幾度も「悪魔の子」と呼ばれたことがあった。オレステスも同じ髪と瞳の色だから、オレスティアが言われてきただろう言葉を想像するのは容易だった。
とはいえ筋骨隆々、顔立ちもきついオレステスはたしかに悪魔と呼ばれても納得できる容貌ではある。
けれどオレスティアは?
鏡で見た限りでは、優し気で美しかった。風貌だけで言えば悪魔よりも天使ではないか。
「まぁ!」
腹立ち紛れも込めて、オレステスは大仰なまでに声を上げる。
「まさかそんな理由だけで、娘を虐げるんですか!? 非道ですね!」
心の底からの本音だった。
本当は侯爵夫妻に投げつけたい。というか、これからは機会があればビシバシ言ってやるつもりではある。
遠慮はしない。それがオレスティアの地位向上にまで役立つかはわからないが、少なくとも虐げようなどという気持ちはへし折ってやらなければならなかった。
「――あんた、性格変わってないか?」
「さぁ。以前の私を覚えていないので」
大声でわかりきった嫌味を叫ぶ姿に驚いたのだろうか。驚くというよりも引いた顔で呟くアレクサンドルに、けろっと言い放って見せた。




