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第102話 新パワースポット@ローベ

(あ、またうちの宿に向かって祈ってる!)


 3日間の祭りが終わってまだ数日のローベの街は、観光客や各地からの商人たちの滞在も続いており、普段よりもまだまだ賑やかだ。

 それでも、この3日間のために総力を挙げて取り組んでいたローベの商工会も、ローベ内外の商会も商店も商人たちもそれなりの結果を出すことができたようで、祭りの前の慌ただしさはひとまず落ち着きをみせて日常生活に戻りつつあった。それはやどり木亭も同じだ。


 が、やどり木亭に他とちょっぴり違うところがあるというならば、祭りの三日目と同様に、宿に向かって祈りを捧げようと訪れる人が途切れることがない…ということだろう。


 そして今朝も、本日の当番でマリーが宿の周りの掃き掃除をしていたところに、やどり木亭に向かって祈りを捧げる人たちが、早朝にも関わらずにちらほらと訪れていたのだ。


 …そう、説明するまでもないが、あの事故ーーーマリーが無自覚に聖女の力を使って侯爵夫人を治癒した、まるで奇跡のような出来事ーーーのせいだ。

 その“奇跡のような出来事”の噂は収まることなく、やどり木亭はすっかり縁起物扱いとなっている。マリーの前世的に言うならば、いわゆる“パワースポット”。



 実はローベの街は、今やこの話題で持ちきりだった。

 祭りの前から既にある程度「お仕着せ風の制服といえばやどり木亭」という認識もあったことから、「あの事件の際に渦中にいた、ピンク色のお仕着せっぽいの格好をしていた少女は、やどり木亭の子らしい」とすぐに認識された。

 おまけに、ラベンダー美容液やラベンダー水の先行販売で、新商品の高い効能が口コミで広がっていたため、その二つが関連づくのもあっという間だった。


『ピンク色のドレスを着た少女が事故にあった侯爵夫人を不思議な力で助けたらしい』

『やどり木亭のラベンダーという商品がすごいらしい』

『ピンクの聖女の奇跡』

『ピンクちゃんの奇跡』


 などなど……その中には『お仕着せ(メイド服)の少女が可愛いかった』『お仕着せ(メイド服)はやっぱり最高!』『お仕着せ(メイド服)は正義!』とか、ナニカそんな感じの感想も混じってはいるものの……とにかくまあそういうことで、ローベの街で、今やマリーは時の人なのである。ただし、水面下で。



 実は、事故後の事情聴取の後、命の恩人であるマリーが、下手な小芝居までうって必死に聖女であることを隠したがっているのだと察した侯爵夫人が治癒師と一計を案じたのである。

 結果、ゆくゆくの事は今の時点では決められないけれども、ひとまず()はマリーが聖女であるという事実を、「ここだけの話」にすることにしたのだ。

 …しかし実際には、マリーはまだ、自分が聖女だなどと1ミクロンも思っていない。事情聴取の際はただ単に聖女だと誤解されて今度こそ不敬罪になっては困ると、誤解を解くために必死に奮闘していたわけなのだが、マリーの大根役者ばりの小芝居もなんとか役に立ったらしい…。


 それに現在、王都には今代の聖女がいる。そんな中、平民に聖女が誕生したかもしれないなどということが表立つことになれば、いらぬ争いを生むきっかけになるかもしれないしれない。そもそも、マリーが聖女だなどと断定されてしまっては大事過ぎる。聖女という存在はそれほど“特別”だ。

 何より、洗礼を終えているとはいえ、まだマリーは12歳。

 戦時などであればまだしも、このような平時に(現在、瘴気によって国が危機に直面していることはまだ限られた者にしか知らされていないため)、無用な騒動を起こしかねないことを積極的に明らかにすることを、今の時点ではためらったという理由もあった。

 そしてその夜遅く、公館より商工会と各ギルドに通達が出されたのである。


 ーーー本日、公館前で馬車による事故が発生したが、現場の状況も現状復帰しており、開催に際して何一つ問題はないため、祭り3日目も通常開催とする。

 なお、事故では数名の怪我人が出たが、祭りのために外国から研究中の上級ポーションが持ち込まれており、それら数種類のポーションと治癒師による治癒魔法で全ての怪我人は既に完全に完治したーーーと。


 もちろん、公館からの通達内容と実際に事故現場で目撃されたマリーによる“奇跡のような出来事”には相違があるわけだが…

 ローベは古くから商業で栄えてきた街だ。わざわざ通達を出さなくても事故現場は速やかに復旧されて現状復帰されていたし、すべての怪我人が完治していたことは、すでに周知されていたこと。にもかかわらず、わざわざ出された通達の意味を、ローベを訪れる利に敏い商売人たちは十分に理解した。

 そもそもこの街に集まる賢い商人たちは“大きなもの”と衝突することを良しとしない。争いから生まれるものには概ね余計な労力や害しかないからだ。

そのため、()()がよほど世の中の理に反していることであったり、悪事の片棒を担ぐようなことでなければ、柔軟に対応し受け入れることも容易いのである。

 だから、ローベの商人たちはもちろん、ローベに出入りする商人たちも、街の人たちも、集まった人々も、皆その通達を聞いて察したのである。「ああ、そういうことなのか」と。


 おかげで、マリーが起こした“奇跡のような出来事”は、水面下で広まったのである。ある意味、公然の秘密と言えるかもしれないが、まだ誰もマリーのことを、表立って聖女だと断定していないので、そう処理したところで誰かに罪が行くという心配もない。


 とまあそのような事情があるため、無自覚な聖女マリーは今や“時の人”であるにもかかわらず、自分が“奇跡のような出来事を起こした”と思われていることも、「まるで聖女みたいだ」と思われていることも、あろうことか一部では、正しく「聖女」だと認識されていることなどにも、露ほども気づいていないのだった。




「あ!オリバー支配人、おはようございます!」


「マリーさん、おはようございます。今日もお元気ですね」


 掃き掃除を終えたマリーが宿の中に戻ると、支配人のオリバーが出勤していた。


「うふふふ!はい、おかげさまで元気です! ところでオリバー支配人!わたし、わかっちゃいましたよ!」


「…ほう…何が分かったのですか?」


「むふふふ! この間のお祭りの最終日から、うちの宿に向かって拝む人がいるじゃないですか! あの人たちって、うちの商品のリピーターさんたちだと思ってたんですけど」


そこで思わせぶりに言葉を切ったマリーは、ふんす!と鼻の穴を広げそうな勢いで言葉を続けた。


「ふっふっふ!ズバリ、あの人たちは、うちの食堂チームの熱狂的なファンです!!お祭りでお仕着せ(メイド服制服)チームと男装執事組のクレアさんとルイーザさん…アレク様とルイ様たちも出店に立って接客してたから、さらにファンが増えたってことだと思います! あ!そういえば、侯爵夫人が以前おっしゃっていた流行の小説、“薔薇の星騎士“もこのお祭り期間にさらに販売数を伸ばしたって聞きましたし…あのお話のモデルだと噂のアレク様とルイ様の知名度も、きっとまた上がったんですよ!だから皆さんが一目憧れの人に出会いたいという祈るような想いでやどり木亭を訪れてるんだと思うんです!」


 実際には、水面下でパワースポットと化しつつある“マリー”に祈りを捧げたり、奇跡にあやかりたいだとか、なんかいいことあるといいなとか、話題の少女を見たいとか、話題の少女がいると噂の宿を見ておきたいとか、そういう理由からなのだが。

 …なんというべきだろうか、以前からメイド服の女の子たちと男装の麗人が大人気で行列ができるほどだったこともあり、マリーがそれのことーー『ピンクの聖女詣で』ーーに気づくことはないのである。


「…なるほど…なかなか興味深い考察ですね」


「えへへへ」


オリバー支配人に朝から褒められたような気がしてマリーはご機嫌だ。


(あ!もしかしてファンの皆さんは、もう推しをただ推すだけではいられなくなっちゃったのかな…!ファンっていうか、もう崇拝? そっか、信仰の域にまで到達してしまったってことなのかも?! )


「オリバー支配人! ふふふふふ! これは商売繁盛の予感ですね!!」


(皆さんどうぞどうぞ!その調子でどんどん沼っちゃってくださいよ!)


 やどり木亭の繁盛の気配にニンマリとほくそ笑むマリー・聖女、12歳なのである。…まあ、ほくそ笑んだところで、ただ可愛らしいだけのマリーなのだが…


(むふふふふふふふふ!)


…可愛らしい?…本当にそうなのだろうか……?

お久しぶりの更新になってしまいましたm(_ _)m

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― 新着の感想 ―
[良い点]  お久しぶりです。  2回目の感想失礼致します。第102話まで読みました。作中で頑張っている、たまに恥ずかしい思いをしたりする主人公のマリーの表情が活々していて新鮮でした。  主人公が仕…
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