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第100話 マリー、ゆっくりする

「ふわああああ…………んーーーー!! よく寝たあ………………」


 まぶたの上からでもわかる強い眩しさに、さらにぎゅっと目を閉じたマリーはそのまま大きく伸びをして、パチリと目を開けた。窓からは燦々と日差しが差し込んでいるし、朝の小鳥のさえずりも聞こえない。


「っはっっ!!」


マリーは血の気が引くのを感じながら、がばり!とベットから飛び起きた。


「ね、ねぼうだ!」




 今年、ローベのお祭り初参加となったやどり木亭は、出店を決めた時には予想もしなかった大きな成果を上げることができた。

 サンドイッチやレモングラスのアイスティーは1日目と2日目は目標達成し、3日目に至っては急遽前日から追加していた分も含めて完売だったし、直前にプレ販売を始めたラベンダー水と美容液も大好評で飛ぶように売れた。

 特に、2日目の侯爵夫人の事故でやどり木亭のラベンダーアイテムが使われたらしいという噂がどこからか流れたようで、出店にはかなりの客が詰めかけたし、幾つもの商会からも引き合いが来た。ただ、商会との取引については、すでに領主である侯爵家との契約も決まっている上、オリバー支配人の実家である隣国の商会と以前からやどり木亭を利用してくれていた幾つかの小さな商会と契約をしたいというマリーやセルジュたちの希望もあり、販売窓口となる商会はかなり限定されている。現在の生産数では販売数に限度があるのでこれはどうしようもない。ただ、宿ではこれまで通り宿の利用客や個人客への販売は続けることになっている。


 そんな状況だったので、昨夜は閉店後にセルジュとオリバー支配人、トーマス料理長、ジェニー、マリアンヌらと3日間の売り上げの確認の他、今後の生産や販売などについての話し合いもしたために、マリーが休むのが随分と遅くなってしまったのだ。

 マリーは早くに休んでいいと言われたものの、前世大人で会社員だったこともあり、子どもながらに「出店したい!」と言い出した責任感も加わって、頑張って参加したのだ。「わたしえらい!」と自分を褒めるマリー。勤労少女である。


 そして翌日の今日は、セルジュとオリバー支配人は朝一番から商業ギルドへ行き、祭りの報告や今後の取引などについての書類を提出に。ジェニーは今後の量産化のために関連する工房を呼んで打ち合わせだ。

 祭りの翌日ということもあり、作業場は内職チームから2人が出勤して仕事の待機をしている他は、子供達は皆お休みにしている。

 ただし、祭りの後も1週間ほどは宿の予約も満室なので、宿泊チームと食堂チームはもう少し忙しいため、交代でお休みを取ってもらうことになるのだが。


 そんなこんなで昨夜までお仕事に勤しんだマリーは、無事に祭りが終わった安心感もあったからか、今日はどう見てももうお昼の気配を感じるこの時間まで爆睡していたのである。




「まままま、まずいよ!!! この感じは、絶対にもう朝じゃないよね?」 と、マリーは血の気が引くのを感じながら、がばりとベットから飛び起きると、そのままの勢いでリビングに駆け込んだ。


「ママ大変!!! ねぼうしちゃった!! 今日シモンズさんたちと山に行く約束してたのに!!」


 大慌てでリビングに飛び込んできたマリーをうふふふと微笑みながらマリアンヌが迎えた。


「マリーちゃん、おはよう。シモンズさんとダリルさんは、今日急用が入ってしまって一緒にお出かけできなくなったのですって。朝、マリーに急に予定が変わって申し訳ないってお詫びを伝えに来られたわ」


「え?」


「なんでも、どうしても外せないお仕事が入ったのだそうよ。自分から誘ったのに突然予定をキャンセルしてしまって申し訳ないっておっしゃってたわ」


「そうだったんだーー…でもそれなら、よかったあ……」


 マリアンヌの言葉に寝坊してすっぽかしたりしていなかったとわかり、一気に安心したマリーはぽすりとソファーに腰掛けた。


(そうだよね。もしわたしが起きてなかったら、きっとシモンズさんたちが呼びに来てくれて、そしたらママが起こしてくれたりするはずだもんね。あーー、慌ててあせちゃった…)


「それから、もしかすると数日戻ってこれないかもしれないそうよ。部屋の鍵を預かったわ」


「え、そうなの?!」


(今日だけじゃなくて、数日?! ああ…今日こそ、“薬草の聖地”の話を確認しようと思ってたのに!)


 “薬草の聖地”のことを誰かに話しても問題ないのかをいい加減確認しておかなくては、この間の事情聴取の時みたいに変に誤解を与えてしまいかねないからと、マリーは今日こそはシモンズに確認するつもりだったのだ。



「そっか。お仕事なら仕方ないよね!」


「さ、それじゃあ朝食にしましょうか!」


「うん!する! 今日の朝食はパンケーキ?」


「うふふ、本当にあなたはパンケーキが好きね? じゃあ今日はパンケーキにしましょうか!」


「わあ! ママ、大好き! バターと蜂蜜のパンケーキね!!」


 それからマリーも朝食の準備を手伝って、マリアンヌと一緒に朝食をとることにした。



「うわあ!すごい!キレイ! ママ、とっても可愛いいね!!」


 マリアンヌが盛り付けたパンケーキのさらには、ラズベリーやブルーベリー、いちごなどのフルーツが綺麗に飾り付けられていて見た目も可愛らしかった。マリーが前世で見た、お洒落なカフェのメニューにあったようなパンケーキのプレートである。


「ふふふ、そう? 前にパンケーキを食べた時にマリーちゃんが言ってたでしょう?フルーツを飾っても可愛いから食堂のメニューにしてもいいかもしれないって! だから、薬草園のフルーツをいただいて作ってみたの。そういえば、マリーちゃん、いつの間にフルーツまで植えてたの? ママ知らなかったけどフルーツはあるといいわよね。嬉しいわ!」


「え?」


(薬草園にフルーツ?植えたっけ?聞き間違いかな?)と思ったマリーは首をかしげたが、ちょうどその時、「ぐうううううう」とマリーのお腹が大きく鳴った。


「あらあら!マリーちゃんのお腹が早く食べたいって催促してるわね。さあ、早くいただきましょう」


「うん!いただきます!」


(ま、いいか!そんなことより…………ん〜〜〜〜〜やっぱり美味しい!!最高だよ!)


 やはりバターと蜂蜜のパンケーキはマリーにとって正義なのである。





 “薬草の聖地”行きが中止となり、休日の予定が突然ぽっかりと空いたマリーは、とりあえず、1日の日課をこなすために薬草園に向かうことにした。


 そよそよと心地よく吹く風に、薬草の香りが乗ってくる。


「ん〜〜〜〜!今日もいい香りだね!」


 ラベンダーは今日も綺麗な紫色の花をしっかりと咲かせている。その他のハーブたちは木も葉も花も、どのハーブも見るからに元気そうにわさわさと茂っている。


「うん。今日もみんな元気で良い感じ〜!」


 そしていつものように「えい!」とキラキラ金色に輝く光の雨を降らせている時、緑の景色の奥の方に赤い色がチラチラ見えるのに気づいた。


「あれ? もしかして、ママが言ってたのって、あれのことかな?」


 ベリー類を植えた記憶はなかったため、マリアンヌが「薬草園から採った」と言っていたのは聞き間違いかもしれないと思っていたが、もしかすると植えていたのかもしれないと近寄ってみると、薬草園の奥の方にあるマリーの背丈を越えるほどの高さの木に、前世でよく見かけたブルーベリーやラズベリー、いちごなどなど、赤や黒などの実がたくさん成っていたのだ。それも1本の木に、である。


「…本当にあるね…ブルーベリーにラズベリーに、これはブラックベリーでしょ?こっちの黒い実はなんだろう? っええっ? でも、こっちの世界って凄いね?? 1本の木に違う種類の実がなるんだね?」


 ならない。

 普通は普通に一般に一種類だ。


「凄いね?前世じゃありえないよね?いや、もしかしたら接ぎ木とかしたらできたのかな…?っていうか、こんな実のなる木も植えてたって気づかなかったよ!うふふふ、わたしぐっじょぶ!」


 うふふふと自分を褒めたマリーはさらに続ける。


「でも、ベリー系ってハーブだっけ?あ、でも時々、ドライになった色んな種類の実とかをブレンドしたハーブティーとかは売られてたっけ…なるほど、ハーブティーつながりってことかな?」


 ふむふむ、とマリーは思わず内心で頷く。


「それにしても、お庭に食べられる実がなるっていいよね!ハーブはもちろん役に立つし嬉しいけど、フルーツってなんだかお得な感じだし! うん!前世であったみたいに乾燥させてハーブとブレンドしてハーブティーにしてもいいよね!あれって見た目も可愛いし、甘酸っぱくて美味しいし、女性に人気が出そうだよ!それに、日持ちするから宿でも売りやすいかも!」


 うむうむと頷き、むふふふふと一人で妄想を膨らませるうちにニヤニヤが止まらないマリーである。


「でもそれなら、ローズヒップとかアプリコットとかー…あ、ドライにするならレーズンとかもいいよね〜!ラム酒に漬けてラムレーズンにしたい!パウンドケーキとかパンに入れたりもできるし!いや、それならりんごとか桃とか、オレンジとか……」


 マリーが妄想を暴走させながら、思わず目の前の“ベリー盛り合わせの木”を触ったところ、ヒュンっと目の前にあの文字が現れた。


「あ!!!」


 思わず驚いて手を離すと、文字も消える。


「そうだ!すっかり忘れてた!!」


 祭りで忙しかったり、事故もあったりでそれどころではなく、マリーの頭からすっかり忘れさられていた、アレである。


 マリーは確かめるように、もう一度ベリーの木に手を伸ばしてみる。


「おおお!や、やっぱり! なんか文字、見える…!!」


 祭りの日の朝、薬草を触った時にマリーの目の前に、触った薬草の名前や効能がうっすらと表示された、アレである。

 そう。マリーはよく知らないけれど、異世界転生ものでよくあるステータスウィンドウや鑑定画面のような、アレだ。

 もう一度触って、じっくりと見てみる。


 -----------------------------------

 ベリーの木

 果実/ベリー数種類

 ブルーベリー、ラズベリー、ブラックベリー、

 ブラックカラント(カシス)、いちご

 果実の種類によって効能が異なる

 -----------------------------------


「あ、この黒い実はカシスなんだね!…っていうか、名前は“ベリーの木”なんだね?それに“ベリー数種類”って、確かにその通りだけど…。 ちなみに、“いちご”は“ストロベリー”って書かないんだ…カシスは丁寧に2つ名前書いてるのに…」


 なんだか微妙な気もする。少し大雑把じゃないだろうか。それに相変わらず文字が薄くてちょっと見えにくい気もする。


「やっぱりこれって……パワスポ効果のバージョンアップだよね?」


 マリーが行き着くところは、必ずそこである。


「パワスポ効果って、なんでもありだもんね!金色の光の粒子を雨のように降らせたりするし、ハーブでつくった化粧水と美容液の効能は前世で考えられないほど高すぎるし、大怪我をしたって治癒魔法とのコラボ(相乗効果)で治癒しちゃうし…」


 …というのはそもそもマリーの思い込みであり、正しくは全てマリーの聖女の力によるものだ。がしかし、残念ながら、マリーはまだ自分が聖女だなどと1ミクロンも知らないので、不思議な力は全て“パワスポ効果”ということで納得してしまうのである。


「そもそも魔法がある世界だもんね! ファンタジーだもん! 手から水とか火が出たり、治癒魔法で怪我が治っちゃう世界だもん! そりゃあ、なんでもアリだって話だよね! …それに、確かにこれはものすごく便利だよ。でもさすがに、ちょっと文字が薄くて見えにくい気がするよ。パワスポバージョンアップにもそろそろ限界があるってことなのかな?」


 まあ、便利だからいいけど! とマリーはひとりごちると、ふふふふと笑った。

 そして胸の前でむんずと腕を組みながら仁王立をすると、「うん、もう驚かないもんね!!」と宣言するのだった。


わあ〜〜、100話目でした!

読んでいただき、ありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
[良い点] パンケーキに喜んでいるマリーちゃんが、年相応の子供らしくて可愛い! ベリーの実(各種)がトッピングされてるパンケーキって凄く美味しそうですね。 パンケーキ専門店に行けば食べられるでしょうか…
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