また会えた
「事故ですよ」
琥珀がさらに追及する前に有人は答えた。
「少なくとも僕はそう聞いています。姉さんが高校に入って間もない頃、ちょうど校舎の改修工事をしていたんです。鉄骨の組みが甘かったようで、運悪く姉さんが通りかかった時に」
「その時、有人はそばにいたの?」
「僕は当時小学生でしたから、さすがに高校には通えませんね」
ということは、事故に見せかけて殺されていたとしても有人にはわからないということだ。琥珀は胸の奥が冷えていくのを感じた。
追手が来たのは、今回が初めてだとは限らない。以前にもコルネ=ナイトレイを罰するべく転移してきた可能性だって十分にあるのだ。
(有人を巻き込むわけにはいかない)
琥珀が密かに決意を固めたその折、有人は保健室にたどり着いた。詰めていた保健医に立ちくらみしたことを説明してベッドを一つ貸してもらうよう取り付けた。
「授業が……」
「今は休むことが先決です。前世の記憶を取り戻すと精神に相応の負担がかかります。追体験するようなものですから」
おまけに琥珀はコルネ=ナイトレイと夜光琴音の二人分。疲弊するのも無理はないと有人は言う。経験者に諭されてしまえば琥珀に反論の余地はない。大人しくベッドを借りた。
「少し眠れば回復しますよ」
布団の中に潜り込んだ琥珀の頭を撫でる。幼い子どもにするような有人の仕草に、琥珀は胸を緩く掴まれたような心地がした。安心感、懐かしさ、そしてほんの少しの切なさ。遠い昔、誰かにこうして慈しまれた気がした。
「転校生には、近づかないでね」
「それは僕の台詞です。姉さんは無鉄砲過ぎます。心配するこっちの身にもなってください」
有人の小言に琥珀は苦笑した。穏やかな眼差しを向ける有人の顔をいつまでも見ていたかったのが、瞼が重く感じる。疲労も手伝ってひどく眠かった。やはり自分は疲れているのだろう。
「今度こそ……気をつけるよ」
琥珀は目を閉じた。
「ごめんね」
「何がです?」
「私が死んだせいで、姉弟じゃなくなっちゃった」
有人の表情は伺えない。まったくだと怒るか、それともくだらないことだと呆れるか。確認する勇気はなかった。
「姉さんのせいじゃありませんよ。こうして生まれ変わって、また会えて、一緒に生きています。それでいいじゃないですか。僕は満足です」
琥珀は深く息を吐いた。熱くなった目頭を押さえて「ありがと」と呟く。視界は閉ざされていたが、有人が笑ったような気がした。
「ずっと一緒だとは約束できませんが」
意識が完全に沈む寸前、有人の独り言が耳に入った。
「来世でも僕は姉さんの弟に生まれたいですね」