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雁は来ぬ 萩は散りぬと さ雄鹿の
雁は来ぬ 萩は散りぬと さ雄鹿の 鳴くなる声も うらぶれにけり
(巻10-2144)
雁は既に飛来して、萩は散ってしまった。
それでも妻を求めてさ雄鹿が声をあげて鳴くけれど、その鳴き声は弱々しい。
雁が飛来する時期には、萩が散る。
萩を求めて鳴く鹿にとって、雁は天敵か。
そして結局は、天敵に恋する対象を奪われ、悲しみの鳴き声をあげる。
晩秋の風景を哀感をもって詠んだとする人もあるけれど、他の意味があるような気がする。
すなわち、天空から飛来する雁は、身分も高く財力もある立派な男。
その立派な男に愛する妻(萩)をとられて(散らされて)、身分の低い男(雄鹿)は、惨めに嘆くのみ。




