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春山の 霧に迷へる うぐひすも
春山の 霧に迷へる うぐひすも 我にまさりて 物思はめやも
(巻10-1892)
春山の霧に迷う鶯であっても、私以上に不安な思いをするでしょうか。
作者は、何か事情(おそらく恋人との別れ)を抱え、迷い悩んでいる。
春の霧の中で、鶯が迷い飛んで鳴いているけれど、私のほうが辛いと詠む。
尚、「春山の 霧に迷へる うぐひすも」は、「春山の 友うぐひすの 泣き別れ 帰ります間も 思ほせ我を」(巻10-1890)を受けている。
恋人と泣く泣く別れ、心が深い霧の中に入ってしまって、どうしていいのかわからない状態。
空を飛ぶ鶯なら再会の希望があるかもしれない。
しかし、そんな動きができない私は、鶯以上に不安で仕方がない。
それにしても、式子内親王の歌に通じるような、美しく雅、そして憂いを含んだ歌と思う。




