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万葉恋歌  作者: 舞夢
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足柄の坂を過ぎしときに、死人を見て作りし歌一首

小垣内の  麻を引き干し  妹なねが  作り着せけむ  白栲の  紐をも解かず

一重結ふ 帯を 三重結ひ  苦しきに  仕へ奉りて

今だにも  国に罷りて  父母も 妻をも見むと 思ひつつ

行きけむ君は  鶏が鳴く  東の国の  恐きや 神の御坂に

和妙の  衣寒らに  ぬばたまの  髪は乱れて

国問へど  国をも告らず  家問へど  家をも言はず

ますらをの  行きのまにまに  ここに臥やせる

                            (巻9-1800)


垣根の内の麻を引いて干し、愛しい妻が布として織ってくれた白い着物の紐を解くこともせず、普通なら一重であるはずの帯がやせ細ったために三重にさせ、その辛く苦しい宮仕えを果たして、ようやく今すぐにでも国に帰って、父や母、そして愛しい妻の顔を見たいと願い、歩き続けたあなたは、とにかく恐ろしくて、人がいないような神の御坂で、その柔らかだった着物は寒々しく、黒い髪は乱れたまま、お国はどこですかと聞いても、国を答えることはなく、お家はどこですかと聞いても、家を答えることはない。

宮仕えを果たした立派な男は、残念かな、旅の途中で、ここで倒れ死んでいる。


旅中、行き倒れの死者を目にした場合には、歌を詠み、その霊を鎮め、旅の安全を祈る風習があった。

この死者は特に、都にはるばる上り、その任を果たして帰国するおりに、何らかの事情で、人里離れた足柄の山中にて、行き倒れになったものと思われる。

その出身国がわからないので、どこまでの旅かわからないけれど、さぞかし辛い死と思う。

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