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三諸の 神の帯はせる 泊瀬川
大神大夫の長門守に任ぜられし時に、三輪の河辺に集ひて宴せし歌二首
三諸の 神の帯はせる 泊瀬川 水脈し絶えずは 我忘れめや
(巻9-1770)
後れ居て 我はや恋ひむ 春霞 たなびく山を 君が越え去なば
(巻9-1771)
右の二首は、古集の中に出づ。
三諸の神が帯とする泊瀬川の流れが絶えない限り、私はあなた方を忘れることなどは無理なようです。
ここに残されることになり、私は恋しくなると思います。春霞のたなびく山をあなたが越えて行ってしまったなら。
大神大夫は三輪朝臣高市麻呂。長門守に任命されたのは大宝二年(702)正月十七日。その出発前に宴が行われた時の歌。
一首目は、大神大夫本人の歌。
二首目は、残される人の歌。妻の立場と説もあるけれど、妻本人でなくても宴席の誰かが詠んだと理解するほうが自然かもしれない。
いずれにせよ、春霞のたなびく葛城連峰を愛しい人が消えていく。
そして、長い間逢えない。
それは正直に寂しいことと思う。




