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高島にして作りし歌二首
高島にして作りし歌二首
高島の 阿度川波は 騒げども 我は家思ふ 宿り悲しみ
(巻9-1690)
旅にしあれば 夜中をさして 照る月の 高島山に 隠らく惜しも
(巻9-1691)
※高島:琵琶湖西岸(滋賀県高島市)
※阿度川波:高島市を流れる川。
高島の阿度川の波は、激しい音を立てているけれど、私は家が思い出されて仕方がありません。このような旅寝は実に寂しく悲しいのです。
旅なので、夜中にさえ渡る月が、高島の山に隠れてしまうのが、とても残念で惜しまれるのです。
旅行者は、家で待つ妻のところに帰りたくて仕方がない。
だから川が大きな音を響かせ流れようと、それは気にならない。
それ以上に、旅寝をするほうが、寂しくて悲しい。
また、せっかく美しく照っていた月が、高島の山に隠れてしまった。
家で待つ妻も、同じ月を見ていたことだろうに、美しい月を共有できないではないか、そんな悔しさを詠う。
よほどの愛妻家なのか、ここまで詠われれば妻冥利に尽きると思う。




