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今造る 久迩の都に 秋の夜の
大伴宿祢家持の、安倍女郎に贈りし歌一首
今造る 久迩の都に 秋の夜の 長きにひとり 寝るが苦しき
(巻8-1631)
今造っている久迩の都にいるのですが、秋の夜長を、独り寝するのは、実に寂しく辛いのです。
大伴家持が奈良京にいる安部女郎に贈った歌。
聖武天皇は、天平十二年(740)十月二十九日から、各地をさまよい始める。
十二月十五日に、橘諸兄の別業のある山城国久迩に落ち着き、都として造営を始めた。(その後天平十五年に造営中止)
宮仕えの辛さ、目と鼻の先にある奈良京にもどれない、もどかしさ。
不用意に奈良京に戻り、それが知られれば、どんな嫌疑をかけられるのか恐ろしくてならない。
何しろ、官僚世界は、足の引っ張り合いなのだから。
せめて、歌で「独り寝の辛さ」を詠むくらいが、不満のはけ口だったと思う。




