552/1385
秋の野を 朝行く鹿の 跡もなく
賀茂女王の歌一首 長屋王の女 母を阿部朝臣と曰ふ
秋の野を 朝行く鹿の 跡もなく 思ひし君に 逢へる今夜か
(巻8-1613)
右の歌は、或いは云く、「倉橋部女王の作なり」といふ。或いは云く、「笠縫女王の作なり」といふ。
※賀茂女王:伝未詳。
※阿部朝臣:名前が欠けており、これも不明。
※倉橋部女王:伝未詳。
※笠縫女王:穴人部王の女、母は田形皇女。巻8-1611の作者
秋の野を朝方に踏み分けて行く鹿のように、どこを通ったのかわからなく、どこに行ったのかわからないと思っていた貴方に、どういうわけか今夜逢うことができたようです。
しばらく通って来なかった男が、突然訪ねて来たのだろうか。
「秋の野を 朝行く鹿の 跡もなく」は、おそらく「当てにはしていなかったけれど」の皮肉。
男としては、可愛い皮肉と思うだろうけれど、女としては「皮肉の一つ」でも言いたいのかもしれない。




