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しぐれの雨 間なく降りそ 紅に
仏前に唱ひし歌一首
しぐれの雨 間なく降りそ 紅に にほへる山の 散らまく惜しも
(巻8-1594)
右は、冬十月、皇后の宮の維摩講の終日に、大唐、高麗等の種々の音楽を供養して、しかして及ちこの歌詞を唱ひき。琴を弾きしものは、市原王、忍坂王 後に大原真人赤麻呂を賜はりしなり。歌子は田口朝臣家守、河辺朝臣東人、置始連長谷等十数人なり。
仏前にて唱えた歌一首
しぐれの雨は、そんなに絶え間なく降らないで欲しい。
紅色に美しく染まる山の黄葉が散ってしまうのが惜しくてたまらないのです。
天平十一年冬十月、皇后宮(光明皇后の父藤原不比等の旧宅:現法華寺)にて、祖父藤原鎌足の七十周忌として行われた維摩講の最終日に仏前に奉納された歌。
尚、藤原鎌足は維摩講の創始者で、この法会は十月十日から七日間行われる、初日と最終日は楽人の演奏があった。
また、最終日の十月十六日は、藤原鎌足の命日。
その死後三十年間途絶えていたのを、子の不比等が再興、天平五年以降は興福寺で行われていたけれど、この年は皇后宮で行われた。




