544/1385
右大臣橘家の宴歌七首(4)
朝戸開けて 物思ふ時に 白露の 置ける秋萩 見えつつもとな
(巻8-1579)
さ雄鹿の 来立ち鳴く野の 秋萩は 露霜負ひて 散りにしものを
(巻8-1580)
右の二首は、文忌寸馬養
天平十年戊寅の秋八月二十日なり
※文忌寸馬養:壬申の乱における功臣文忌寸禰麻呂の子。橘諸兄の引き立てにより、この年の七月七日に主税頭に任ぜられている。
朝戸を開けて物思いをしていると、白露が置かれた萩の風情が、目に入ってしまってやるせないのです。
雄鹿が来て、しきりに鳴きたてる野の秋萩は、冷たい露を浴びて、すっかり散ってしまったようです。
白露の寒々しい風景と、すでに散ってしまった萩妻を求めて「キュン」と鳴くばかりの雄鹿の寂しさを詠いながら、当日の宴会の終わりを惜しむ気持ちを託している。




