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秋萩の 散りのまがひに 呼び立てて
湯原王の鳴く鹿の歌一首
秋萩の 散りのまがひに 呼び立てて 鳴くなる鹿の 声の遥けき
(巻8-1550)
※湯原王:志貴皇子の子。兄弟に光仁天皇・春日王・海上女王。
叙位・任官の記事は史書に見えない。万葉集に十九首の短歌を載せる。
天平前期の代表的な歌人の一人。
秋萩が散り乱れるその中から 妻を呼ぶ鳴く鹿の声が、遥か遠くから聞こえて来る。
目の前には、萩が散る野原が大きく広がり、その遥か遠くから、妻を呼ぶ鹿の声が聞こえて来る。
特に妻を呼ぶ時の鹿の鳴き声は、切なさを感じる。
それが散り乱れる萩の花の中から聞こえて来れば、ますます秋の深い情趣に包まれる。
秋の情景歌として、覚えておきたい歌と思う。




