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聖武天皇の御製の歌二首
天皇の御製の歌二首
秋の田の 穂田を雁がね 暗けくに 夜のほどろにも 鳴き渡るかも
(巻8-1539)
※夜のほどろにも:「ほどろ」は密集していたものが拡散すること。夜の闇が白み始める頃を意味する。
今朝の朝明 雁が音寒く 聞きしなへ 野辺の浅茅ぞ 色づきにける
(巻8-1540)
秋の田の穂田を刈ると言われている雁が、まだ暗いのに、夜が白み始めたからなのだろうか、鳴き渡っていく。
今朝の明け方、寒々しい雁の声を聞いた折に、野辺の浅茅が一斉に色づいているのことに気がついた。
聖武天皇の御世は、蝦夷の反乱、長屋王の事件、天然痘の流行で政権を担った藤原四兄弟が相次いで死去、藤原広嗣の乱、それらを懸念したのか相次ぐ遷都、そして再び平城京への還都、大仏建立と慌ただしい日々が続く。
聖武天皇は繊細な性格とされ、夜も十分に眠れなかったのだろうか。
夜の明けきらぬ前から、肌寒さを感じながら、雁の鳴き声を聞いているのだから。




