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草枕 旅行く人も
笠朝臣金村の伊香山にして作りし歌二首
草枕 旅行く人も 行き触れば にほひぬべくも 咲ける萩かも
(巻8-1532)
伊香山 野辺に咲きたる 萩見れば 君が家なる 尾花し思ほゆ
(巻8-1533)
※伊香山:琵琶湖北端木之本町にある山。
旅行く人が、行きずりに触れてしまえば、たちまちに着物に色が染まるほど、萩の花が咲き乱れているのです。
伊香山の野辺に咲く萩を見ていると、あなたの家に咲く尾花を思い出します。
旅の歌では、訪れた土地を、まず褒める。
それと、あとにして来た故郷を思慕することを、セットにするのが習い。
安全な道中と、帰還を願うためである。
この二首も、その習いを守っている。
ただ、少し考えなければならないのは、咲き乱れ道行く人を染めてしまうような萩の花と、家で待つ尾花。
それを道中で出会う遊女と、家で待つ妻ととらえると、浮気したくなる心と、それを戒める歌のように思えてくる。




