羇旅にして作りき(18)
海の底 沖漕ぐ舟を 辺に寄せむ 風も吹かぬか 波立てずして
(巻7-1223)
海原の沖を漕いでいる舟。あの舟を、ここの岸辺に寄せる風が吹いてくれないでしょうか、波を立てることなくに。
港で舟の着岸を待つ人の歌とされているけれど、舟が愛しい男で、その男が他の岸(女)の家に行かずに、波立てず(噂を立てず)、私の家に来てくれないだろうかとの、意味にもとれるかもしれない。
大葉山 霞たなびき さ夜ふけて 我が舟泊てむ 泊まり知らずも
(巻7-1224)
※大葉山:未詳。
大葉山は霞に包まれてしまって、夜が更けても、私の舟は泊まる港も見つからない。
これは男が、女の家を忘れたか、(あるいは忘れたフリをしているか)を、大葉山が霞に包まれてしまったことを理由に、待つ女に逢瀬をしない歌かもしれない。
さ夜ふけて 夜中の潟に おほほしく 呼びし舟人 泊てにけむかも
(巻7-1225)
夜が更けて、真っ暗闇の潟で、ひそひそと声を交わしていた舟人は、どこかに泊っているのだろうか。
深夜に男女の逢瀬を見た人が詠んだのだろうか。
そんな心配など、大きなお世話かもしれない。




