羇旅にして作りき(15)
玉津島 よく見ていませ あをによし 奈良なる人の 待ち問はばいかに
(巻7-1215)
※玉津島:和歌山市南部の雑賀離宮から沖に見えた島々。
玉津島をしっかり見ていただきたいのです。
奈良で待つ奥様に聞かれたら、どうなさいますか。
奈良の都に戻ろうと急ぐ大宮人を、土地の遊女が引き留めた歌と言われている。
おそらく宴会での戯れ歌。
潮満てば いかにせむとか わたつみの 神が手渡る 海人娘子ども
(巻7-1216)
潮が満ちて来れば、どうするのだろうか。
海の恐ろしい神がおられる難所を渡っている海人の娘たちは。
前歌の「よく見ていませ」に応じて、雑賀から海を見下ろし、視界に入った様子を素直に詠んでいる。
玉津島 見てしよけくも 我はなし 都に行きて 恋ひまく思へば
(巻7-1217)
玉津島の景色を見たとしても、私は感動しないことにします。
あまり見てしまうと、都に帰ってから、恋しく思ってしまうだろうから。
前々歌の引き留めに対する謝礼の歌。
ほぼ、社交辞令的に詠んでいる。
この歌を詠んだ大宮人は未詳。
それほどまでに、都で待つ妻に逢いたくて仕方がなかったのか。
それとも、実は接待をされた遊女は、大宮人の好みではなかったのかもしれない。




