鳥を詠みき
山のまに 渡るあきさの 行きて居む その川の瀬に 波立つなゆめ
(巻7-1122)
※あきさ:鴨ににた小さな水鳥。あいさ、あいさ鴨ともいう。万葉集この一例のみ。北方で生殖し、冬に日本に来る渡り鳥。
佐保川の 清き河原に 鳴く千鳥 かわづと二つ 忘れかねつも
(巻7-1123)
佐保川に 騒ける千鳥 夜くたちて 汝が声聞けば 寝ねかてなくに
(巻7-1124)
山の端を鳴きながら渡るあいさ鴨が降り立つと思うのです。その川の瀬に波など決して立ってはなりません。
佐保川の清らかな河原で鳴く千鳥と河鹿のふたつは、どうしても忘れることはできません。
佐保川で鳴き騒ぐ千鳥の声を夜遅くに聞くと、寝ようにも寝られないのです。
一首目は、遠来の鳥を客としてねぎらう歌、あるいは「あちこちの女を飛び迷う男君」が、今日こそは自分の住む家に無事に到着するように、川の瀬(人の噂)は波を立てて邪魔をしないようにと願う、待つ女の歌かもしれない。
二首目は、佐保川名物の千鳥と河鹿をそのまま忘れられないと素直に詠む。あまり寓意は感じられない。
三首目は、佐保川付近に住む女が、夜に千鳥が鳴くと男が通って来ると思ってしまう、だから、寝ぼけ顔など見せられない、まして、うかつに寝ることなどは出来ないとの意味があるように考えられる。




