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河を詠みき(5)
さ檜の隈 檜の隈川の 瀬を速み 君が手取らば 言寄せむかも
(巻7-1109)
ゆ種蒔く あらきの小田を 求めむと 足結ひ出て濡れぬ この川の瀬に
(巻7-1110)
さ檜の隈の 檜の隈川の川瀬が速いので、貴方の手にすがったなら、世間の噂となってしまうでしょうか。
斎み清めた籾を蒔く新墾の田を探そうとして、足を結って出かけてきたのですが、この川瀬で、足結を濡らしてしまいました。
この二首は、檜隈地方の宴会での謡い物らしい。
内容的には、純粋に川を詠むというよりは、男女の逢瀬の歌。
一首目は女性が男性の手にすがって、速い川瀬を渡るけれど、噂を気にしている。
おそらく、恋の逃避行と思われる。
二首目の「斎み清めた籾を蒔く新墾の田」は未婚の女性か。
足結は、袴を膝の下で結んだ紐。
旅支度をして出かけてきた、つまり意を決して、初々しい彼女を求めに来たけれど、邪魔が入って、恋の旅路も進まないという意味らしい。




