河を詠みき(3)
今しくは 見めやと思ひし み吉野の 大川淀を 今日見つるかも
(巻7-1103)
馬並めて み吉野川を 見まく欲り うち越え来てこそ 滝に遊びつる
(巻7-1104)
音に聞き 目にはいまだ見ぬ 吉野川 六田の淀を 今日見つるかも
(巻7-1105)
かわづ鳴く 清き川原を 今日見ては いつか越え来て 見つつ偲はむ
(巻7-1106)
今すぐには見られないと思っていたみ吉野の大川淀を、幸運にも、今日見ることができました。
み吉野の川を、是非見たいと思い、馬を並べて鞭打って山を越えてきました。
そして、念願の滝のほとりで、遊ぶことができたのです。
噂では聞いておりましたが、まだ見たことがなかった吉野川の六田の淀を、今日はようやく見ることができました。
河鹿の鳴く清らかな吉野川の河原を今日見たからには、またいつか山を越えて来て、もう一度見たいと心から願うのです。
四首全てが、吉野川を見る歌。
おそらく、多忙で、なかなか外出できない下級官人の吉野川への小旅行か。
一首目を三首目が、六田の淀を見る歌。
二首目は滝を見る歌。
四首目は、その双方を詠み、また来たいと願う。
初めて見る官人もいたり、案内する官人もいたかもしれない。
よほど楽しかったのか、最後にはまた遊びに来たいと詠う。
とにかく自然な喜びに満ちた、奈良時代の官人の小旅行の歌と捉えたい。




