雨を詠みき
我妹子が 赤裳のすそ野 ひづつらむ 今日の小雨に 我さへ濡れな
(巻7-1090)
通るべく 雨はな降りそ 我妹子が 形見の衣 我下に着り
(巻7-1091)
愛しいあの娘の赤裳の裾を今日の小雨は濡らしているのでしょう。
私も濡れて歩こうと思います。
こんなに濡れ通るほど、雨は降らないでください。私は愛しいあの娘の形見の衣を下に着ているのですから。
一首目は、愛しい娘と離れている状態で、小雨が降っている。
その小雨の中、愛しい娘が濡れて歩くなら、私も同じ雨に濡れて歩きたい。
好きな人が濡れる雨なら、一緒に濡れてもかまわない、いや、出来れば一緒に濡れることで、同じ思いをしたい、一体となりたいと願う。
二首目は、男女が互いを偲ぶ形見として、下着を交換する風習があった。
小雨なら我慢できるけれど、びしょ濡れになって、せっかくの形見の衣をひどい状態にしないで欲しいと、雨に願う。
研究者によっては、別の男の詠と言うけれど、同じ男が小雨の段階から、雨が激しくなってしまうのを恐れる心理が読み取れるので、同じ男のほうが、スムーズと思われる。




