雲を詠みき(2)
大き海に 島もあらなくに 海原の たゆたふ波に 立てる白雲
(巻7-1009)
右の一首は、伊勢に従駕せし時の作なり
この広い大海に島などは全く見えないのに、海原のたゆたう波の上に、白い雲が立ち渡っている。
この伊勢行幸の時期と、作者も未詳となっている。
万葉時代の人にとって、雲は島や山の上に立つものだったようだ。
しかし、立つはずがない白雲が、おそらく海の上、船の上から見えている。
もし、雲が大きくなり、嵐にでもなれば、実に恐ろしい。
帝も、付き従う自分も含めて、海の中に沈むかもしれない。
しかも、周囲に島などは全く見えない。
泳いでもたどり着けない、つまり死さえも、覚悟しなければならない。
そして、その後の国は、自分の家族はと思うと、不安は増すばかり。
また別の解釈もある。
大海に島もないのに湧き立つ雲、その自然の不思議を素直に詠んだ歌とも考えられると、自然詠の立派な歌と化す。
ただ、そうなると難しいのは、何故、この立派な歌が詠まれた時期と、詠み人を記さなかったのか。。
編者の意図はどこにあるのか、これで万葉集の疑問は、なかなか尽きない。




