大和道の吉備の児島を過ぎて行かば
大納言大伴卿の和せし歌二首
大和道の 吉備の児島を 過ぎて行かば 筑紫の児島 思ほえむかも
(巻6-967)
ますらをと 思へる我や 水茎の 水城の上に 涙拭はむ
(巻6-968)
※吉備の児島:岡山県児島半島
※水茎の:水城にかかる枕詞
大納言大伴卿が答えた歌二首
帰り道の大和道の吉備の児島を過ぎ行く頃には、筑紫の児島を思い出すだろう。
立派な男と自分では思っていたけれど、水城の上で涙を拭くことになろうとは。
大伴旅人は、遊女児島と、身分の違いを超えて、心が通い合っていた。
だから、別れが辛い。
なるべく早く都に戻りたいと思うのが、大伴家の棟梁として、当然ではあるけれど、大宰府で妻を亡くして以来、傷心の旅人を慰め続けて来た児島との別れは、立派な男であり武人でもある旅人にとっても、泣けてしまうほど寂しいのである。
一首目では、「吉備の児島を通れば思い出すかな」程度で、見栄を張っているけれど、そんな見栄はすぐに破綻する。
俺だって寂しくてしかたないよ、お前との別れは、もう涙が自然にあふれれくる。
いつの世も、心を通じ立った相手との別れは、実に辛く寂しい、それを感じさせてくれる名歌である。




