さす竹の 大宮人の
太宰小弐石川朝臣足人の歌一首
さす竹の 大宮人の 家と住む 佐保の山をば 思ふやも君
(巻6-955)
※さす竹:大宮にかかる枕詞。
※大宮人:首都平城京の官人。
帥大伴卿の和せし歌一首
やすみしし 我が大君の 食す国は 大和もここも 同じとそ思ふ
(巻6-956)
大宮人が家として住む佐保の山あたりを、あなたは懐かしく思われますか。
大君が治められる国は、大和であっても、ここであっても、同じなのです。
神亀5年(728)、京官を任じられ離任する太宰小弐石川足人と、新任の帥大伴旅人との贈答歌。
「都の佐保の大邸宅を離れて、はるばる大宰府に来られましたが、やはり懐かしく思われるでしょう」との石川足人に、着任直後の大伴旅人は、「いや、我が大君の治める国には変わりはありません、ここで尽力をいたします」と返す。
懐かしいなどと不用意に言えば、余計な疑いを持たれかねないし、佐保に残してきた一族への危険も生じかねない。
無難な答えであるのは、大伴一族を束ねる旅人としては、当然のことになる。




