いさなとり 浜辺を清み
車持朝臣千年の作れる歌一首并せて短歌
いさな取り 浜辺を清み うちなびき 生ふる玉藻に 朝なぎに 千重波寄せ 夕なぎに 五百重波寄す 辺つ波の いやしくしくに 月に異に 日に日に見とも 今のみに 飽き足らめやも 白波の い咲き廻れる 住吉の浜
(巻4-931)
白波の 千重に来寄する 住吉の 岸の黄土に にほひて行かな
(巻6-932)
※車持朝臣千年:伝不詳。車持氏は車持部の伴造氏族。歌はすべて行幸に従駕しての作と見られ、笠金村・山部赤人と共に、宮廷歌人的な役割を担う歌人らしい。
※いさな取り:「浜」にかかる枕詞。
※住吉の岸:「岸」は切り立った崖。かつて住吉の海岸は染料に使う黄土を産出した。
清らかな浜辺に、うちなびき生える玉藻に、朝なぎには千重の波が寄せ、夕なぎには五百重の波が寄せます。
その浜辺に寄せる波のように、ますますに、月ごとに、毎日見ても、その時だけのこととして満足することが出来るのでしょうか。
白波の花が咲き廻る、この住吉の浜は。
白波が千重に繰り返し寄せる住吉の岸の黄土に、染まって参りましょう。
美しい住吉の海岸の土地褒めをして、黄土に染まりたいとは、海岸で遊んで行きましょうとの気持ちを詠む。




