梅花の歌三十二首 (7)
春の野に 霧立ちわたり 降る雪と 人の見るまで 梅の花散る
筑前田氏真上 (巻5-838)
春柳 かづらに折りし 梅の花 誰か浮かべし 酒杯の上に
壱岐目村氏彼方 (巻5-839)
うぐひすの 音聞くなへに 梅の花 我家の園に 咲きて散る見ゆ
対馬目高氏老 (巻5-841)
我がやどの 梅の下枝に 遊びつつ うぐひす鳴くも 散らまく惜しみ
薩摩目高氏海人 (巻842)
春の野に、霧が立ち渡っています。降る雪かと、人が見間違うかのように、散っているのは梅の花なのです。
かずらに挿そうと折った梅の花が、酒杯に浮かんでいます。いったい、どなたが浮かべたのでしょうか。
うぐいすの鳴き声を聴いていると、我が家の庭に梅の花が散っているのが見えます。
我が家の梅の下枝に、うぐいすが遊びながら鳴いています。うぐいすも、梅の花が散るのが惜しいのでしょうか。
一首目は、筑前目田氏真神の作、「目」は国司の四等官、それ以外は未詳。
強めの風に吹かれでもしたのか、一面に梅の花が散る様子を、華麗に詠んでいる。
二首目は、壱岐目村氏彼方の作、この人も未詳。
梅の花が杯に浮いているのを見て、髪に挿した鬘か、あるいは梅の木から散ったのかは、わからないけれど、おしゃれな杯にして、おしゃれな歌と思う。
三首目は、高向村主老の作。
鶯の声につられて、満開の梅の花が乱れ散る様子を、情感をこめて詠いあげる。
四首目は、高氏海人の作。この人も未詳。
鶯も梅の花の散るのを惜しんで、梅の枝を飛び回る、これも可愛らしい風情を感じる。




