梅花の歌三十二首 (1)
正月立ち 春の来たらば かくしこそ 梅を招きつ 楽しき終へめ
大弐紀卿 (巻5-815)
梅の花 今咲けるごと 散り過ぎず 我が家の園に ありこせぬかも
少弐小野大夫 (巻5-816)
梅の花 咲きたる園の 青柳は 鬘にすべく なりにけらずや
少弐栗田大夫 (巻5-817)
春されば まづ咲くやどの 梅の花 ひとり見つつ 春日暮らさむ
筑前守山上大夫 (巻5-818)
元号「令和」の由来となった梅花の宴の三十二首。
四首ずつ、訳します。
最初は、主賓の大宰府首席次官紀男人の挨拶から。
正月となり、春が来たなら、このように梅を招いて、楽しみ尽くしましょう。
次官の小野老の作
梅の花は、今咲いているように、散り去ってしまわないで、我が家の庭に、このまま咲き続けてもらえないでしょうか。
栗田大夫は未詳
梅の花が咲いている庭の青柳は、かずらにできそうなほどに、枝を伸ばしているようです。
山上憶良の作
春が来て、最初に咲く梅の花を、一人で見て春の日を過ごすものでしょうか。
正月の梅の花の宴席にふさわしい、素直な喜びにあふれた華やかな歌が続く。
四首目の憶良氏の作は、「美しく咲いた梅の花を独占してはなりません、みんなで楽しむべきです」との反語。
梅の花は、冬の苦難を乗り越えた時に咲く希望であり、幸せの兆しの花。
その幸せは、できるだけ長く、皆で楽しむべし。
その美しい和の世界、「令和」の意味を、もう一度、歌を読みながら、思い出すことも、大切なのだと思う。




