太宰帥大伴卿の、凶問に報へし歌一首
太宰帥大伴卿の、凶門に報へし歌一首
禍故重畳し、凶問塁集す。
永く崩心の悲しびを懐き、独り断腸の涙を流す。
但両君の大助に依りて、傾命纔に継ぐのみ。
筆は言を尽くさず。
古今に嘆く所なり。
世の中は 空しきものと 知る時し いよよますます 悲しかりけり
(巻5-793)
※両君:都から訃報を届けに来た二人の人物。
太宰帥大伴旅人卿が訃報に答えた歌一首
不幸が続き、訃報が次々に届きます。
心から崩れ落ちるような哀しみを永く懐き続け、ただ一人断腸の涙を流しています。
今はただ、お二人の大きな支えで、傾いた命をつないでいるだけなのです。
文では、言いたいことを尽くせません。
これは昔も今も、同じに嘆くところなのです。
世の中とは、空しいものであると知った時、いよいよますます、悲しくなるのです。
大伴旅人は太宰師として筑紫に着任した翌年、その地で妻の大伴郎女を亡くす。
そして今また、都から天武天皇の皇女、田形皇女の訃報を受け取る。
他にも、奈良からは続々と訃報が届き、その中には大伴旅人の幼子の訃報もあったようだ。
確かに、こんな辛い思いは、文字では書ききれない。
旅人氏ならずとて、生きる気力もうせてしまう。
断腸の涙、この表現も心に響く。




