同じ大嬢の、家持に贈りし歌二首
同じ大嬢の、家持に贈りし歌二首
かにかくに 人は言ふとも 若狭路の 後瀬の山の のちも逢はむ君
(巻4-737)
世の中し 苦しきものに ありけらし 恋にあへずて 死ぬべき思へば
(巻4-738)
いろいろなことを、世間の人は言うけれど、若狭路にある後瀬の山のように、いつかは必ず逢いましょう 愛しい貴方
※若狭道の後瀬の山:福井県小浜市の城山。後瀬の山の後の響きに、この後もお逢いしましょうと家持との逢瀬を願う意味を込める。
世の中とは、苦しいものらしいのです。この恋の苦しさに堪えらえずに、死にそうになることを思うと。
すでに気持ちが通じ合っている二人であっても、世間の噂を気にしないようにしていても、逢えない時間が続いたりすると、不安も生じて、恋の苦しみは消えることがない。
添い遂げてしまえば、全て消え去る苦しみであるけれど、坂上大嬢としては、そんなことを言っている状態ではない。
片思いであっても、約束をしあった仲でも、添い遂げるまでは、この苦しみは続く。




