広河女王の歌二首
広河女王の歌二首 穂積皇子の孫女、上道王の女なり
恋草を 力車に 七車 積みて恋ふらく 我が心から
(巻4-694)
恋は今は あらじと我は 思へるを いづくの恋そ つつみかかれる
(巻4-695)
恋などと言う草を、車七台に積んだような重苦しい恋をするのも、全て自分の心に生えてくるからなのです。
恋などは、もうありえないと思っていたけれど、どこかの恋とやらに、つかみかかられてらいるのでしょうか。
恋を生えて来る草にたとえ、それが旺盛に生えるので、なんと車七両にまでなってしまった。
相当重いけれど、その恋草が生えて来るのは、そもそも自分の心とわかっている。
恋などは、もうこりごりで自分にはありえないと思っていたけれど、悔しくも、またどこか(誰か)の恋にとらえられそうになっている。
恋を草にたとえ、車に七両乗せる、その発想が稀有にして、面白い。
恋には無関心を貫こうとしたけれど、また恋に、悔しいし憎らしいけれど、とらえられそうになっている・・・すでに恋に落ちたのかもしれない。
苦しい恋心を詠いながら、洒脱にして、面白い名歌と思う。




