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かくのみし 恋ひやわたらむ
大伴宿祢地室の歌一首
かくのみし 恋ひやわたらむ 秋津野に たなびく雲の 過ぐとはなしに
(巻4-693)
どうしてこれほど、恋し続けるのだろうか。
秋津野にたなびく雲のように、行き過ぎることはなく。
大伴宿祢地室の詳細は知られていない。
天平勝宝六年(754)正月、家持の宅で催された一族の宴に参加して、歌を詠んでいる(巻20-4298)。その時は従五位上相当官である左兵衛督。
秋津野は、奈良吉野地方。
恋に疲れて、ぼんやりと秋津野の空を眺めていると、雲がたなびいている。
あの雲だって、やがては消えていくのに、私の恋心はそれができない。
本当に、どうしてこんなに恋し続け、苦しむのだろうか。
やはり恋心というものは、どの世のどんな人でも、簡単に消え去るとか、決着がつかないものなのだと思う。
それゆえに、恋の歌は、なくなることもない。




