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網児の山 五百重隠せる
市原王の歌一首
網児の山 五百重隠せる 佐堤の崎 小網延へし子が 夢にし見ゆる
(巻4-662)
網児の山が幾重にも隠している佐堤の崎で、小網を広げていたあの娘が、夢にでてくる。
※網児の山:現三重県志摩市の英虞と推定されている。佐堤の崎も、その付近。
市原王は、写経所舎人、玄蕃頭、造東大寺長官を歴任し、仏典や漢籍に精通したトップクラスの知識人。
その知識人が、片田舎の小網を広げる年若い娘を夢に見る。
それも幾重にも隠す網児の山が、邪魔なようなことを言いながら。
どのような関係があったのかわからない。
机にへばりつく知識人の市原王にとって、小網を広げる娘が、新鮮に見えたのかもしれない。