湯原王と娘子(3)
湯原王のまた贈りし歌一首
ただ一夜 隔てしからに あらたまの 月か経ぬると 心迷ひぬ
(巻4-638)
娘子のまた報贈せし歌一首
わが背子が かく恋ふれこそ ぬばたまの 夢に見えつつ 寝ねらえずけれ
(巻4-639)
湯原王が再び贈った歌一首
一夜だけ逢えなくても、まるで一月も逢えない時間が過ぎるかのように、心が乱れてしまうのです。
娘子が再び返した歌一首
貴方様が、それほど私のことを恋い慕ってくれるので、夜の夢に出てこられて、私は眠ることができなかったのです。
娘子と逢瀬を遂げたばかりに、湯原王は、ますます想いが募ることになる。
一夜逢えなくても、一月も逢えないかのごとく、恋に悩む。
そんな思いが娘子に通じたのだろう、夢に湯原王が何度も出てきて、眠れませんと答える。
朝廷からは重要視されない湯原王であっても、天智天皇の孫、志貴皇子の子。
娘子にとっては、雲の上の存在だったと思う。
娘子は、そんな高貴な人に言い寄られ、その妻を気にしつつも、関係を結んでしまったと思われる。
そして、その後の展開も、また気になるところである。




