若返りの水
娘子の 佐伯宿祢赤麻呂に報贈せし歌一首
わが手本 まかむと思はむ ますらをは をち水求め 白髪生ひにたり
(巻4-627)
佐伯宿祢赤麻呂の和せし歌一首
白髪生ふる ことは思はず をち水をは かにもかくにも 求めて行かむ
(巻4-628)
私と共寝したいと思っておられる、ますらおの貴方、若返りの水を求めていらしてください、のん気にしていると、白髪が生えてしまいますよ。
白髪が生えるなんて考えてもいませんよ、それでも若返りの水を求めて、早速参上いたしましょう。
をち水は、若返りの霊水。
元正天皇が美濃国不破に行幸した際に、多戸山の美泉を「病の平癒」と「若返り」の名水と称賛し、「養老」と改元したという故事がある。
さて、いろいろな解釈があるけれど、この二人の間の「をち水:若返りの水」は、酒かもしれないし、佐伯宿祢赤麻呂を招いた娘子自身のように思う。
それも、通常の真面目な恋愛関係ではない。
酒家か妓楼の娘が、馴染みの客に、「白髪が生えるまで待たせないでください、若返りの水(私)を求めて遊びに来てください」と誘い、男客の佐伯宿祢赤麻呂は、「そんなには待たせません、若返りの水(娘子)を楽しみに、早速行きます」と答える。
それを思うと、佐伯宿祢赤麻呂は娘子にとって、金払いが良い上客だったのかもしれない、ただ、歌を返すだけであてにならないタイプだったかもしれないなど、様々な想像が浮かんで来る。




