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笠女郎 近くあれば
近くあれば 見ねどもあるを いや遠に 君がいまさば ありかつましじ
(巻4-610)
貴方と近くに住んでいれば、お逢い出来なくてもいられましょうが、これほど遠くの場所の貴方となると、生きている心地がしないのです。
大伴家持との恋に破れ、平城京から飛鳥の自分の屋敷に戻って来た笠女郎の未練の歌であり、笠女郎が大伴家持に贈った24首の最後となる。
近くに住んでいても、実際には逢えなかった。
しかし、近くに住んでいる、同じ空気を吸っていると思えば、心が慰められることもあったのだと思う。
しかし、そんな生活も終わった。
これほど遠くの貴方とあれば、生きている心地がしない。
この歌は、笠女郎の未練と絶望の哀感を、それを読む人の心に響かせる歌である。