大船を漕ぎのまにまに
土師宿祢水道の、筑紫より京に上る海路にして作りし歌二首
大船を 漕ぎのまにまに 岩に触れ 覆らば覆れ 妹によりては
(巻4-557)
ちはやぶる 神の社に わが掛けし 幣は賜らむ 妹に逢わなくに
(巻4-558)
大船を思いっきり漕ぐ勢いにまかせて、岩にぶつかって、転覆するなら転覆してもかまわない、愛しい人のせいであるならば。
神の社に掛けた幣は、戻して欲しいのです、愛しい人に逢うことができないのなら。
作者土師宿祢水道は、大宰府での梅花の宴で歌を作った官人。
この場合の愛しい人は誰か、都で待つ女なのか、あるいは大宰府に残して来た女なのか、判定が難しい。
どちらにせよ、危険な海路で、不安を覚えて絶望を感じた。
「あの人が私に逢う気持ちがないから、こんなに大船が揺れる」
「結局、どんなに思っても逢っくれないのなら、岩にぶつかって船が転覆して自分が海に沈んでも、同じことで死んだようなもの」
「せっかく神の社に幣をかけて恋愛成就をお願いしたのに、全く霊験がないではありませんか、だったら、その弊を返してください、どうせ逢えないのでしょうから」
愛する人に逢えないなら、乗った大船が転覆してかまわないとか、神の社に掛けた幣を返して欲しいとか、命より恋愛が大事というべきか、相当な激情を感じる。




