賀茂女王の大伴宿祢三依に贈りし歌
賀茂女王の大伴宿祢三依に贈りし歌一種 故左大臣長屋王の女なり
筑紫船 いまだも来ねば あらかじめ 荒ぶる君を 見るが悲しき
(巻4-556)
筑紫に向かう船がまだ来ないのに、今から心を隔てるような貴方を見ると、悲しくなってしまいます。
大伴宿祢三依は、大伴旅人に従って、神亀四年(727)末か翌年春頃、筑紫に下った。
おそらく大宰府への左遷なのかもしれない。
これも、当時の藤原氏の政権独占計画のひとつ。
この歌の「荒ぶる」は、「心が荒れる」意でなく、「疎遠になる、よそよそしくなる」との意味もある。
大伴三依が、賀茂女王に何故、つれない態度を取ったのか。
愛する女に長らく逢えないと思って、無理やり、心を断ち切ろうとしたのだろうか。
要するに賀茂女王とは、距離を置いたのだと思う。
さて、賀茂女王は、長屋王の息女。母は阿倍朝臣。
神亀五年(728)頃に贈ったとの説があり、そうなると長屋王の冤罪に巻き込まれた年神亀六年(729)の前年となる。
まだ筑紫に乗る船が来ないのに、どうして、今から、そんなつれない態度を取るの?
この次、いつ逢えるかもわからないのに、本当に悲しい。
歌の意味としては、それほど難しくないけれど、その後の政変等を考えると、複雑な感慨に包まれる歌である。