移り行く 時見るごとに 心痛く
勝宝九歳六月二十三日、大監物三形王が宅に於て宴せし歌一首。
※勝宝九歳六月二十三日:天平勝宝九歳(757)。
※大監物三形王:系譜未詳。
移り行く 時見るごとに 心痛く 昔の人し 思ほゆるかも
(巻20-4483)
右は、兵部大輔大伴宿祢家持の作りしものなり。
移り行く時勢の流れを見ていると、心は痛いほどに苦しく、昔の人を思い出してしまうのです。
時系列的に言えば、前年5月2日に、聖武天皇が崩御。
同、5月10日に一族の大伴古慈斐が朝廷批判の罪で拘禁。
この年、天平勝宝九歳(757)家持と関係が深い橘諸兄が1月6日に他界。
尚、もっと関係が深かった元正天皇は、9年前に崩御されている。
(つまり、家持を理解する人は、ほとんど他界している)
5月20日に、藤原仲麻呂が紫微内相となり、同日養老律令が施行。
この歌は、橘奈良麻呂、大伴古麻呂の陰謀が山背王により密告される5日前のもの。
家持も、大伴家の長として、この動きを察知していた。
(やがて、自分も、罪に問われることも)
大伴家にとって、古き良き時代(人々)を含めて、偲びたい。
しかし、仲麻呂全盛の時代、身の危険を感じての詠。
それを思うと、複雑な思いのこもった歌である。




