族を喩(さと)し歌一首 短歌を并せたり(1)
族を喩し歌一首 短歌を并せたり
久方の 天の門開き 高千穂の 岳に天降りし
皇祖の 神の御代より はじ弓を 手握り持たし
真鹿子矢を 手挟み添へて 大久米の ますらたけをを
先に立て 靫取り負ほせ 山川を 岩根さくみて
踏み通り 国求ぎしつつ ちはやぶる 神を言向け
まつろはぬ 人をも和し 掃き清め 仕へまつりて
蜻蛉島 大和の国の 橿原の 畝傍の宮に
宮柱 太知り立てて 天の下 知らしめしける
天皇の 天の日継と 継ぎてくる 君の御代御代
隠さはぬ 明き心を すめらへに 極め尽して
仕へくる 祖の官と 言立てて 授けたまへる
子孫の いや継ぎ継ぎに 見る人の 語り継ぎてて
聞く人の 鏡にせむを あたらしき 清きその名ぞ
おぼろかに 心思ひて 空言も 祖の名絶つな
大伴の 氏と名に負へる 大夫の伴
(巻20-4466)
高天原の天の戸を開き、高千穂の嶺に、天から降りられた皇祖の、神代の時から、
はじ弓を手に取り、真鹿子矢を手挟み添えて、大久米の強い武人達を前面に配置し、靫を背負わせ、山でも川でも、ゴツゴツとした岩場も恐れず踏み別け通り、
住むべき国を探し求め、荒ぶる神々を諭し、従わない民を和らげ、この国を掃き清め、(我が大伴家は)お仕え奉り申し上げて来たのである。
そして、蜻蛉島の大和の国の橿原の畝傍山に、立派な宮柱をお建てになり、天下を治められることとした天皇に、そしてその尊い御末として。皇位を引き継がれて来られた大君の御代御代に、汚れた心など持たず、明らかな忠誠の限りを、大君のお側仕えの役目の中、極めつくして、途切れることなくお仕え申し上げて来たのが、本来の大伴家の先祖代々からの役目なのである。
このことは、大君から授かった、大伴家の有難い先祖の代からの役目であり、この役目については、大君からの、明確なお言葉として、授け賜ったものであるから、我が子孫は、今後も、何代も何代も続いて、教えられた人は語り継いで、話を伝え聞く大伴家の人の末代までの大事な根本となすべきものであり、清らか心を持って継承するべき、家名の根本に関わるものなのである。
したがって。決して、おろそかに思うべきではなく、軽々しく先祖代々の家名を絶つべきではない。
これは、大伴の、その氏名を背負う、全ての男たちを諭すものである。




