海原を 遠く渡りて 年経とも
海原を 遠く渡りて 年経とも 子らが結べる 紐解くなゆめ
(巻20-4334)
今替る 新防人は 船出する 海原の上に 波なさきそね
(巻20-4335)
防人の 堀江漕ぎ出る 伊豆手船 楫取る間なく 恋は繁けむ
(巻20-4336)
※伊豆手船:伊豆風の船。伊豆は船の製作地として有名だった。
右は、九日に大伴宿祢家持が作る。
海原を遠く渡り、長い年月が経ったとしても、愛しい彼女が結んでくれた着物の紐を
決して解くことのないように。
今期、交替となる新防人が船出して行く海原の上では、波は立たないで欲しい。
防人が難波の堀江から漕ぎ出て行く、伊豆手船の楫を取るのが休む間もないように、故郷への思いも募るばかりでしょう。
八日に長歌と短歌を詠んだばかりの家持は、それでも気持ちが収まらなかったのか、翌九日にも、防人の歌を三首も詠んだ。
歌としては、平板なものであるが、何故詠んだのかが問題。
おそらく、無理やり故郷を離された防人が、可哀想で心を奪われた、に尽きると思うけれど。(その前に、越中国の守として地方赴任の経験があり、中央や防人として徴発される地方の人の辛い思いを知っていたのだと思われる)




